詰襟セーター1


まことが慶次にこの大きなセーターを借りたのは、忘れもしない自分が女の子になって次の日の事だ。
学園から支給された制服は見慣れた黒い詰襟だった。
肩幅や腰周りはずいぶんとゆとりがあるというのに胸や尻は窮屈で、今にも張り裂かんとばかりにパツンパツンに布を押し上げてしまっていた。
シャツも詰襟も胸のせいで上4つの前ボタンが留められず、どうしたものかとむっちりとした谷間を見せびらかしながらおろおろと廊下を歩いていたまことを、向かいからのんびりと歩いてきた慶次はギョッとした顔で二度見して、慌てて細い手首を掴み寄せると廊下の隅へ連れて行き、自分の着ていたセーターを頭から被せてやったのだ。

「わっ、ふ?!・・・・・・あ、ありがとうございます・・・!」
「・・・い、いや・・・いやいやいやいや!ぜんっぜん構わないって!」

細い手首の感触、深く柔らかなそうな谷間に僅かに頬を赤く染め、慌てながら自分にセーターを被せる慶次はまことの知る戦国時代から来た『けいじさん』よりも幾分か歳若く見えた。
それでも凛々しい眉の精悍な顔つきや、大きな体は『けいじさん』と同じものだ。
そして、この被せてもらったセーターから香る慶次の残り香も、あの満員電車で幾度も嗅いだまことの腹の奥をきゅう、と切なくさせる『けいじさん』の体臭と同じだった。

スン、と鼻を鳴らし顔を赤らめ、もじもじとしながら「ありがとうございます」と頭を下げるまことに、慶次は一瞬頬をでろりと脂下がらせたが慌てて首を振り、真顔を作る。

「・・・でも女の子があんな格好してこんな所ウロウロしちゃヤバイって!マジでヤバイ!見つけたのが俺だったからよかったけどさ!猿飛とか政宗なんかに見つかったらスグにどっか連れ込まれちまうぜ?あ、猿飛ってわかる?猿飛佐助!幸村・・・ほら、昨日あんたが押し倒してた幸村、アイツのツレなんだけどさー、あ、政宗もね・・・ってあんな奴等の事は別にどーでもいっか!いやぁ、しっかし男臭い所にこうしてかわいい女の子がいると・・・やっぱりいいねぇ!いいねぇ!たまんないねぇ!ね、昨日はドタバタして聞けなかったけど名前、教えてくれるかい?俺は慶次って言うんだ!あとさ、あんたどうしてこの学校にいるんだい?ここ男子校だぜ?それと転校してきたって噂聞いたけどどこの出身?歳は?幸村達とタメ?そういや幸村と付き合ってんの?あっ!昨日俺ってもしかして邪魔しちゃった・・・かな?」

ともすればこの借りた服から香る匂いに頭がぽうっとしてしまいそうだったが、間近で捲くし立てられる慶次の怒濤の質問攻めに、まことは蕩けかかった瞳をハッと見開きぱちぱちと瞬きをする。
そしてキラキラとした瞳で自分を見下ろす慶次に頬を赤らめ、たどたどしくも一つずつ慶次の質問に答えていくまことの姿は慶次の目に非常に健気でかわいらしく映った。

自分は男だったのだ、という発言には流石の慶次も驚いたものの最後には納得をし、この学校で分からない事があったら俺になんでも聞きなよ、と親身に相談に乗ってやり、二人はあっという間にいい先輩後輩の仲になったのだった。
- 40 -
[*前] | [次#]
ページ:

トップに戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -