東館二階南男子トイレにて2


最初、いつもの長曾我部さん─あにきの親衛隊の人達かと思った。
しかし、背中に張り付く硬い体、自分の身体を加減なく締め付ける筋肉質な腕、呼吸を止めようとしているかのように口元を押さえる固い手のひらに、いつもの親衛隊の人達ではない、と気が付いたまことはゾッと背筋を怖気立たせる。

「ン、ンーッ!ンッ!ンッ!ンンンンッ!」
「シッ、宝野殿、静かに。あやつ等に気付かれてしまう・・・」

離して、嫌だ、と唸り声を上げて必死に身を捩るまことだったが、耳元に囁かれた聞きなれた声に、ピタリとその動きを止めた。

『幸村さん・・・?』

もぞり、と塞がれた唇でその名を呼べば、ふるりと頬にあたる指が震えた気がした。

「あ、ああ・・・無理やりにこのような場所に連れ込んで申し訳ない・・・佐助と政宗殿に追われているのを見て、つい・・・」

誰と分らぬ人に捕まってしまった、と緊張していた身体が一気にホッと解れたが、すると乳房を潰すように身体を拘束している腕や唇にあたる固い手のひらを妙に意識し始めてしまう。
幸村さんは女の子が苦手なのではなかったか、こんなに密着してしまって大丈夫だろうか、と小さく身動ぎをすると、再び耳元に「我慢なされよ」と小さな、熱い吐息が吹きかけられる。

それに思わずどくん、と胸の内が高鳴った。

背中にあたる固い体、幸村さんの体。
しなやかな筋肉と大きなペニスを持っていたあの体。
急激に身体中に血が巡り、指の先まで熱くなる。
幸村さんは腕にあたっている胸の奥、その鼓動が激しくなったのに気づいてしまっただろうか。
きつく抱いているこの身体が熱く火照り始めたのをいぶかしがってはいないだろうか。
口元を塞がれ、胸を潰されているので呼吸が苦しい。
はふはふと荒く息を吐けば半開きになった唇の内側に幸村の固い指の腹が触れ、ぞくりとした電流がまことの背筋を走り抜けていく。

「は、は、ぅ、ン、」
「─シッ、来る・・・」

小さく鋭い声が耳を掠めたのと同時に、隣にあったトイレのドアがバタンと勢いよく開かれ、まことは幸村の腕の中でビクリと大きく肩を揺らした。

「まこちゃーん・・・・・・あっれ?ここにもいないかぁ・・・」
「おい猿、そこ男子トイレだろうが」
「んー、ここらへんが怪しいって俺様の勘が訴えてたんだけどなぁ・・・」

開かれたドアの影になり、トイレの中を覗き込んでいる佐助から二人はちょうど死角になっていた。
しかしすぐ隣で響く声に、まことの身体は再度緊張で固くなり、それを庇う様に幸村がますますきつく柔らかな身体を腕にかき抱く。

「Shoot・・・!ったく、まことのヤツ段々小賢しくなってきやがって・・・どこに逃げやがったんだか」
「校舎にいないとなると寮に戻ったのかも・・・あ、そーいや旦那もどこにいるんだろ」
「真田は道場だろ。それか食堂だ」
「ちょっと、アンタは旦那を何だと思ってんのさ」
「じゃあ他にどこにいるっていうんだ?」
「そりゃ・・・・・・あはー・・・」

キィ、とドアが小さく音を立て閉まっていく。
それと同時に二人の足音も小さくなり、遠くカツン、カツン、と階段を下りていく音が聞こえた。
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