スロッターが行く!後

そうして、今名実ともに俺の家となった家の奥の畳の間には、何機ものスロット台が置かれている。
本当にこんなものでいいの?本当にもっと何か必要なものはないの?
と、美女は不安げに何度も問いかけてくる。
かまうかまわないという話ではない、これが、これが!こ!れ!が!欲しかったのだ!
久々に見るジャグラーに手を伸ばす。
何度も俺を楽しませてくれたGOGOランプを愛おしそうに撫でる手つきを見て、美女はやっとなんとなくだが納得したように頷いた。
実機の他にはカウンターにメダルが収納されている宝箱、ドル箱も用意されている。
ジャラジャラと宝箱の中のメダルをかき混ぜながら金物の匂いにしばし酔いしれる。ああ、たまらない・・・たまらない・・・。
そうして電源コードを見つけて、この家って電気きてたっけ?と思い出した。

美女を振り返ると、安心して、と笑顔をくれる。
いつの間にか壁に穴が開けられてており、そこから外に配線が伸びている。
外を見に行くと水車の横に小屋ができていた。
その中では木材が複雑に噛み合って回っており、よくわからないがここで水力発電をしているらしい。
いつの間にこんな工事を・・・。いや、深くは聞かないけれど。

「蓄電もできるから、何かあったらこれもつかってくださいね!」

そう言われて渡されたのは自転車。
ここのコンデンサーに繋いで、こうして、と使い方を教えてもらう。
試しに久々に自転車なんてこいでみると、むぃむぃと足下のコンデンサーが音を立て、家の方で「はるか古の時代よりー」と台が動き始めたのが聞こえる。
なんと、神たまもあるのか!

「ほんとに色々、ありがとうございます!きっと俺、一生ここに住めちゃいます、まじで!ほんとに!」

今だ興奮覚めやらぬ俺は、鼻息も荒く美女にお礼を伝える。
何一つとして不足はない。

「そう言ってもらえると私も気が楽になります、私こそ本当にごめんなさい」

そして、本当にありがとう。
美女はにっこり、と輝くばかりの笑顔をくれた。
その笑顔はいつか、どこかで、見た事があるような・・・

「あの、そういえばお姉さんは一体・・・」

なんという初歩的な事を聞き忘れていたのだ。
あまりの美女っぷりに全ての疑問がふっとんでいた。
しかし美女はふふふ、と笑顔を漏らすばかりで俺の質問に答える気はないらしい。

「時期がきましたら、お迎えにあがります。それまでご不便でしょうが、私も善処致しますので今しばらくお待ちください」

そう言うと、くるり、と美女はターンをして水車小屋を出て行った。

「あ、待って、今お茶でも・・・」

かまどに火を入れた事もないくせにそんな事を言ってみる。
が、追いかけた先に美女はいなかった。
でも、ほんとうにどこかで出会った事があるような・・・。
学生・・・いや、子供の頃?それとももっと・・・。
そこまで考えて、家の中の神たまから「おじいちゃんが死んじゃった〜!」と泣き叫ぶ声が聞こえた。あのオープニングは本当に音がでかい。
そういえばこの台の設定6を打った事がなかったと思い出し、俺は美女の事をとりあえず頭の隅っこにおいて家の中に駆け戻った。





家の掃除もしたし、畑に水もやった、鶏に餌もやった。
いつもならキュウリを齧りながら縁側で昼寝の時間だが、今日からは違う。
ふふ、ふはははは、と高笑いをしばらくしてから様々な台を撫で、取りあえずお前からだ、と神たまの台を開けて設定キーをブッ刺す。
数値をいじって鍵をぐりぐりとして、蓋をしめる。

「ああ・・・久しぶり・・・」

桃色の通常パネルに頬ずりをしてからメダルを投入する。
そして、感動の一打目!




・・・そこからはあまり記憶がない。
我に返ると外は真っ暗で、自分は必死にメダルを木の葉積みにしていた。

「あ・・・れ?」

電気がなく、太陽の動きに会わせて生活していたので時間の感覚がなくなっていて、今が何時かよくわからない。
台についていたカウンターを見返すと6000回転以上回っている。
というと、大体8時間打っていた事になるのか・・・?
これは確実にこちらの世界にきて築き上げた体内時計が狂う。さらに言えば肩が痛い。腹も減った・・・。
しかししかし、手はメダルを盛り上げるのに止まらないし、目は次に何を打つか迷っている。

「くぅぅ〜!今日だけは!今日だけは夜更かしをさせてくれ!」

土間の桶に浸してあったおやつ用のキュウリを齧りながら、俺は次に南国育ちの前に立った。
チョウチョをそっと撫でる。

「こいつを光らせたら、光らせたら寝るから・・・」

目はシパシパと疲れを訴えるが、頭はスッキリと冴えている。
心の奥で、『俺ってなんてダメ人間なんだ・・・』と嘆いている自分がいるが、いざ台の前に座ると『そうだよ、俺ってばダメ人間なんだよ!ダメ人間最高!』というテンションに変わってゆく。
光り輝く南国育ちを前に、ティルーン、ゴッゴッゴッ・・・ティルーン、ゴッゴッゴッ、とレバーを叩く音とボタンを押す音だけが響く。

そして、どのくらい時間が経っただろうか。ついにその時がきた。
淡々とレバーを叩いた瞬間。

キュキュキュキュキュキュインキュインキュイン!!!

驚いて尻が浮いた。
あのジャラジャラとうるさいパチンコ屋のホールのどこにいても、この告知音は聞こえるのだ。
それがこの虫の声しか響かない静かな森の中の一軒家、自分の目の前で鳴り響いた。
きっと森中に響き渡ったであろうこの音。
・・・・・・・・・正直気持ちがいい・・・!超気持ちいい!!!
ああ!美女のお姉さん、ありがとう!
ふう、と呼吸を整えて左リールを押す。

キュイン!

続いて右リール。

キュイン!

「これでとどめ!」

キュイン!

最後に中リールをパン、と押して7を揃える。
グリグリ、と感慨深くボタンをねじ込んで離そうとした瞬間。


「その指、離すなよ」


真後ろから聞こえた男の声に、今度も驚いて尻を浮きそうになったが、首筋にあたる冷たい感触に体が竦み、肩をひくっと動かしただけだった。

『ヤバい』

男の声がした瞬間、俺の第六感がそう告げる。
なにがなんだかわからないが、この男はヤバい。というか空気がヤバい。ヤバいくらいになんかヤバい。
ヤバいとしか言いようがない雰囲気というのを俺は生まれて初めて体験した。

あばば、と視線をうろつかせると、目の前の台が反射して、俺の後ろに立つ男を映していた。
俺を見下ろす冷たい目、オレンジ色の髪、顔には変なペインティング、服は派手な迷彩柄。
さらには俺の首筋にナイフみたいなものをあてている。
・・・一体全体なんなんだ?!
これはあれか、1999X年、世界は核の炎につつまれ、あらゆる生命体が絶滅したかにみえた・・・。
・・・だが人類は死滅していなかった!ってやつか!人類は死滅していなかったのか!
んじゃこいつは強盗?!ヒャッハー!ここは遠さねぇぜ!ってやつなのか・・・っていうかここは俺の家だしこいつが不法侵入者!
あぁ、美女様、帰れる時期っているですか?!今この瞬間じゃないんですか?!
俺、時期が来る前に死ぬかもしれないです・・・!つか、そういえばこの世界って結局どんな世界かも聞いてねぇじゃんか!
世紀末じゃなかったとか?!一体全体どうなっているんだ?!

目の前の台の「南国育ち」という丸っこいフォントが場違いなかんじで浮いている。
自分の世界でこの台を最後に打った時は、チョウチョが飛びまくってキュイキュイ鳴らせまくってホールの視線を一身に浴びて気持ちよかった。
大好きな台だった。だかしかし、今後この台を打ったら、台に反射する後ろばかり気になってしまいそうで集中できないだろう。
・・・この現状から脱出できて、今後スロットが打てればの話だが。

もし現状がスロットの演出だったら、この緑の迷彩柄の男が現れたらスイカあたりの子役が揃うちょい熱演出なんだろうなぁなどと現実逃避をしてしまう俺であった。
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