スロッターが行く!その後−5


マルボロが垂涎の至福の時間を過ごしていた時、俺は夢の中で、そういえばずっと佐助と一緒にスロットが打ちたかった事を思い出していた。
奴はさすが忍者、動体視力がハンパじゃない。頭も柔らかいのか台のシステムを理解するのも幸村の数倍は早く、色々話しをしながらホールで一緒に並んで打ったら楽しいだろうなぁ、なんて事をずっと思っていたのだ。
そういえば何で俺はあの二人のことを忘れていたのだろうか。
あんなにも不思議で、濃い体験をしたというのに、すっかりぽっかり忘れてしまっていた。

後々、すっかりこの平成の時代に慣れた佐助にへらへらしながらそれを伝えると、読んでいたパチスロ雑誌でペシンと頭を張られ、自分で思い出しなね!と怒られてしまった。
まだ腕を吊っているというのに容赦がない奴だ。

「よく言うよ。かいしゃ休んでるのにぱちんこしには行くくせに」

いいんだよ、今は暇な時期だし、有給だって余ってて消化しなきゃいけなかったんだし・・・。
ブツブツ言い訳をしながら呆れた顔でこちらを睨む視線から逃げるように、背中を丸めて佐助の作った飯を食べる。
しかし利き腕を怪我してしまったので上手く箸が使えずボロボロと飯粒を零してしまうと、「まったくもう」と佐助がため息を吐いて茶碗の白米をきゅきゅきゅっと握り飯にしてくれた。
おかずは恥ずかしい事に、ここしばらく佐助に食べさせてもらっている状況だ。

「・・・うまっ!佐助すっげ、この卵焼きすっげーうまい・・・!」

もういっこ、と口を開けると呆れ顔だった佐助が困ったような、恥ずかしそうな顔をして「まったくもう・・・」と口に卵焼きを入れてくれる。
・・・その「まったくもう」が先程の響きより優しく聞こえるのも、その表情がたまらなく胸に響くのも、一体どうした事か。こちらも最近よく感じる疑問の一つだ。
これはさすがに佐助自信には聞けないので、ただ黙って口の中の甘くてしょっぱくて、ダシが利いた卵焼きを咀嚼するのだが・・・なんだこの卵焼き、本当にうまい・・・。


すべての元凶であるものすごく美人な案内人は、佐助を送り出す際元の戦国の世への帰り方を教えはぐってしまったらしい。
美人なのにちょっと抜けてるなんてすごく魅力的だ・・・会ってみたい・・・あっちに連れて行かれる時には会えるかな・・・、とニヤニヤしていると「勝利を連れてきた人だって言ってたけど・・・まだ思い出してないのかよ・・・」と白い目で見られ、俺はその美女を忘れてしまった事がもったいなくてショックなのか、佐助の冷たい視線がショックなのか分からないがちょっとへこんでしまった。
いつかその美女は、またどうにかしてあちらの世界へ佐助と俺を連れて行ってくれるのだろう。
もしも、もしもその時また何か理由があって、記憶を無くしてしまうと言われたら、今度は自信ではなく確信を持って、佐助を思い出せると言うだろう。ああ、もちろん幸村もだ。
でも出来たらお迎えがもうちょっとゆっくりだといいな、なんて我侭を思ってみる。
明日こそは佐助を連れて朝から並んでスロットを打ちに行きたいし、それに何でかパチスロ雑誌と一緒に買ってしまった、『二人でおでかけ』のピンク色の文字が躍るタウン情報誌の地元の王道デートコースなんかも気になってしまっていたりなんかしているのだ。
思春期なんてとっくに過ぎたはずなのに、ここ最近の佐助との共同生活はなんだか妙に浮き足立って、甘ったるくて、例えるなら高設定の台を無事に手に入れ、ロングARTをまったり消化中、みたいな気分になるのだ。つまりは今、幸せなのだ、俺は。


口の中の卵焼きがなくなり、もういっこ、もういっこ、と口をぱくぱくさせると、とうとう佐助が噴き出した。

「もう、本当に勝利はお馬鹿だねぇ」

ほら、その言葉すら甘く聞こえて俺の顔だってへらへらしてしまう。

「勝利ホラあーん」「あ〜」「・・・おいし?」「ン、まじで、すっごく、かなりうまい!佐助サイコーだぜー!ほっぺたおちそー!」「あはー、・・・んじゃ俺様がほっぺた支えててあげる」「・・・え?」

いつの間にか近づいてきていたのか、間近にいた佐助に頬をきゅっと挟まれ、上向きにされる
何すんだよ、と出かかった言葉は、なぜか瞳を潤ませている佐助の顔を見たら引っ込んでしまった。
どこかの部屋から漏れるテレビの笑い声が聞こえる薄い壁、ボロい部屋の中、しばし見詰め合い、何かに吸い寄せられるようにお互い顔を近づけていく。

『あ、もしかして、俺、マジで、ゲイになっちゃった。・・・かも・・・』

マルボロの自分と目を合わせようとしなかった態度や、子猫でも見ているような視線で自分を見る佐助の顔がぐるぐると頭を巡り、でも結局は近づいてくる熱に抗えず、自分もそっと目を瞑る。

あと少しで触れる、という二人の距離も、二人のデロデロに甘く幸せな生活も、天井に空いたぐねぐねとした穴から落下してくる幸村と政宗によってすべて打ち破られる事になる、3秒前の出来事だった。
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