スロッターが行く!その後−4


ヒク、と一瞬止めたイケメンは、またすぐになんでもないようにレバーをノックし始めた。
最初は覚束ないような気がしたが、目押しもしっかりしているし取りこぼしがない。
取り合えず、イケメンよ、おめでとう。マルボロの屍を超えてよくぞその聖地にたどり着いたな。とマルボロに内心敬礼したように、イケメンにも内心拍手を送る。
先ほどはついつい呪いの念を送ってしまったが、こういう時祝福の念を送っておくと、後々巡って自分にそれが返ってきたりこなかったりこなかったりこなかったりするのだ。つまりは気の持ちようなのだが。
そうして自分の台を見直し、カウンターをいじり、余りかんばしくないその履歴に、諭吉さんとさよならコースを変更して俺もどこかいい台を探して移動しようか・・・と現実と向き合い始めた時だった。
今度はカタンと音を立ててイケメンが立ち上がった。
トイレにでも行くのかとなんとはなしにそれを見ていたのだが、下皿にコインはない、サンドに金が入っているわけでもない。リールも回っているわけではない。というかリーチ目で止まっている。
まさか、まさかの離席・・・?!誰がどう見てもリーチ目なこの出目での離席?!何を考えているんだこのイケメンは?!
頭の中を疑問でいっぱいにしながら、俺は左手でその台の下皿に携帯を投げ込みつつ、右手は自分の後ろを通り過ぎ、明らかに出口に向かおうとしている男の背中を咄嗟に掴んでしまっていた。

「・・・!」

「あ・・・の、その、」

手を伸ばし服の裾に触れた瞬間、ガバ、と振り向かれ、先ほどの無表情な顔とは一転した妙に潤んだ瞳で見つめられ、不覚にも息を詰まらせてしまった。
なんだこいつ、本当にいい男だな・・・。

「・・・それ、入ってますけど・・・」

なるべく目を合わせないよう、イケメンではなく台に視線をやりながら呟くと、イケメンは小首をかしげ、ああ、と頷いた。

「別にいいよ。俺様もうお金ないし。・・・アンタやる?」

『俺様』って何だよ・・・ってか!ってかこの台くれるの?!本当に?!マジで!?とガバリと顔を上げると、今度はイタズラそうな、妙にキラキラとした挑戦的な瞳がこちらを見下ろしている。

「で、でも悪い・・・かなぁ・・・なーんて・・・ホラ、どっかで金下ろしてくるとか・・・そこの角にコンビニありますし・・・」
「あは、顔にやけちゃってるぜぇ?自分に正直になりなよ、オニーサン」

ほらほら、どうぞどうぞ、と手をパタパタ振られ、背中をぐっぐっと押され、自分に正直な俺はとうとうへらへらしながら隣の席に着席してしまった。

「いや・・・ホント、マジいいんスか・・・、もう、ホンットーに、ありがとうござい・・・ま・・・す・・・・・・・・・」

しかし、なんとイケメンまでもが今まで俺が打っていた席に着席し、台に肘をついてニコニコしながらこちらを見つめ始まったのだ!
・・・まさか・・・こんな視線を浴びながら打つのか・・・?!にこやかな顔をしているが何があるんだ?!ボーナスが入った瞬間用ナシって、トイレに連れ込まれてボコボコとか・・・?!何こいつ?!怖いんだけど?!

「・・・オニーサン、なんか失礼な事考えてるでしょ?」

「い、え、いえいえいえ、いえいえ、そんな・・・ただ、そんな熱く見つめられると穴があいちゃうかなー・・・なんて・・・」

「えー穴開いちゃうのー?オニーサンおもしろーい、なら俺様もっと見つめちゃおっかなー」

・・・チャラい格好をしていると思ったが、頭の中もチャラそうだ。
こいつどうしよう。台を譲ってもらったのはありがたいけど、本当にちょっとどうしよう・・・と顔を青くしたが、着席した台はリーチ目まで出ていたのだ。次のゲームで演出が始まり、すぐにボーナスに入る。
ジャジャジャジャーン!と聞きなれたクラシックが流れ始め、ふむ、と舌なめずりをしてボーナス消化をし始まると、隣に座っていた男の存在などすっかり忘れ、ただただカットインを出して7を揃えなければ!という気持ちで一心になる。
何回目かの中カットインで中段チェリーが止まり、ドキ、と跳ねた心臓を落ち着かせながら中リール、右リールと押せば赤7が揃う。
よし、と内心ガッツポーズをしていると、横から「あ、これイイ事なんだよね」とイケメンがオメデト、と笑顔を向けてくる。
へへ、とこちらも笑みを返し、またリールを回す。
するとドジューン!とまさかの大カットインが液晶にババーン!と映ったのだ。脳内から興奮物質がジュワッと沸き溢れ、ぶるりと指先が震えたのが分かった。

「!・・・!・・・!!!さ、佐助、佐助、佐助よぉ!きた!きたきたきた!きたぜえぇ!!これロング行くぜ!?っしゃー!やったぜー!やーっぱコレが高設定だったんだよなー!!!」

パンパン、パン!とリールを揃え、このままあと一回!・・・いやいや二回でも三回でも揃えてやるぜ!と鼻息荒くレバーをオンしようとした瞬間。
ぐわし、と腕を掴まれ無理やり体ごと佐助の方に向けられる。

「いで、いでで、さ、すけ、佐助っ!腕っ!腕ねじれてるっ!」

あががが、と喚く俺になんだ、喧嘩か、と店内の視線が集まるが、それどころではないくらいに痛い。腕が取れる!

「勝利?!思い出したの?!・・・勝利、勝利!勝利っ!!!」

「あがががが!?いだだだだだだ!!!」

ちょっと待って、何がなんなんだ、待ってくれ、そのまま抱きつくんじゃない、恥ずかしいというよりも痛い、腕がもげる、もげ・・・・・・!

ボクン、と肩からおかしな音が聞こえたような気がした瞬間、そこから脳天にかけて激痛が走り俺は気を失ってしまった。



なので、間接が外れて右腕をぷらぷらさせている俺をそれでもぎゅうぎゅうと抱きしめて、佐助がほんの一粒、赤ん坊の小指の爪にも満たない量の涙を零した事など知らなかった。
何事だ、とこちらを見に戻ってきた野次馬のマルボロが、結局途中退場となった俺の後を引き継いでまたその高設定台に座り、そのまま万枚を叩き出したのは後日そのホールに並んでいる時に会ったマルボロ本人から聞いた。
それと同時に俺はあのホール内でゲイのレッテルを貼られた事を「あん時は・・・ありがとでした・・・」と缶コーヒーを奢ってくれつつ妙に俺との間に空間を開けるマルボロから聞きだした。
もうあの店には行けない・・・。
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