スロッターが行く!その後−3


「思い出したのですね」

そう言ってにっこりと笑みを浮かべる美女に、不思議と警戒は抱かなかった。
いきなりこんな城のど真ん中に現れた女だ。警戒しなければ、と理性がチラリと訴えたが、すぐにその必要はない、と勘も体も答えを出し、俺様は旦那から逃げ回って天井に張り付いていた手から力を抜いた。
旦那も同じようで、驚いたように拳を振り上げたおかしな格好のままピタリと動きを止め、それでも「うむ」とこっくり大きく頷くとドスンとその場で胡坐をかく。
縁側に立つ女は外の明かりを吸い込んだようにキラキラと輝いていた。不思議な女だ。
どこかで会ったことがある。と頭を働かせていると、旦那が手を上げて「約束は果たしたぞ!勝利殿を迎えにあがりたい!」と大声を張り上げた。

「・・・約束?迎えってどういう事さ?!」

この流れから、勝利は未来へ帰り、もう二度と会えないものだと思っていた。
そういえば勝利自体の事は思い出したがどうやって彼が帰ったのか思い出せない。
この女が関わっているはずだ、と視線を移すと「そちらの方はまだすべてを思い出してはいないのですね」と申し訳なさそうに小首を傾げられた。
「なんと!この佐助め!」と旦那の拳骨を喰らう俺様を見て、女が慌ててした説明によると、勝利はこの美女のちょっとした手違いでこの過去の戦国の世に落ちてしまったという事だった。
手違いを正すのにどのくらいの時間がかかるか分からなかったので、とりあえず仮の宿を人気のない山奥に用意したのだが、それを俺様に見つかって上田に連れてこられた。
勝利を元の時代に戻す準備が出来た時にはこちらの世に随分慣れてしまい、仲の良い友人もでき、すべては自分のせいなのに、その仲を引き裂くのはなんと申し訳ない事なのだろうと酷く反省をした。
しかし勝利は未来の人間だ。帰さなければ、俺様達には分からないが、色々と支障が出てしまうらしい。
勝利が元の世に戻れば、その支障の関係とやらで勝利に関する記憶、思い出すべてを忘れてしまうのだが、もし、万が一、彼の事を思い出したらまた彼と会う機会を設けると約束をしたのです。と女はまたにっこりと笑い、きらめく着物の袖から大きな輪っかを取り出した。

「これをくぐれば勝利さんの所へ行くことが出来ます」

絶対に貴方達は彼の事を思い出せる、と信じて用意しておきました!と女が壁に輪っかを貼り付けると、先程まで漆喰の白い壁だった部分がぐにゃりと歪み、ぽっかりと穴が開く。

「これは・・・」
「えぇ・・・、これをくぐるって・・・」

真っ黒に開いた穴は、ぐねぐねと空間が歪み、どう見ても怪しい。
しかし女はこちらの動揺を知ってか知らずか、大丈夫です。危険な事はありません。とただただににこにこと笑顔を浮かべるだけだ。
しかし、は、と何かを思い出したように目を開くと「そういえば、勝利さんはまだ・・・その、貴方達の事を思い出していないのです」とまた悲しそうに、申し訳なさそうに顔を伏せる。

「・・・ま、そんな事だろうと思ってはいたけどさ」
「うむ」

女の話を聞いて、自分でも大体の事は思い出してきた。
別れを聞いて勝利も悲しそうな顔をしていたが、『思い出したらまた会える』と聞いた途端になーんだ、という表情を浮かべた。
その顔にカチンと来て「思い出せなかったらどうするのさ?!もう会えないんだぜ?!」と言い募った自分に「誰かは思い出すだろ?てか思い出すよ。俺の勘がそう言ってる」とどこから来るのか、自信満々に言い切ったあのへらへらとした顔。
何がだよ、まったく。本当にお馬鹿なんだから。と記憶の中の勝利に悪態を付き、しかしまた彼に会えるのだ、と思うと自分の顔も彼のようにへらへらとした笑みを浮かべてしまうのが止まらない。
大丈夫、俺様達が行って、あの中身が軽そうな頭、ひっぱたいてやるさ、と笑うと女もふふ、と笑みを零す。

「それでですね・・・」

と彼女は薄い紙を一枚差し出した。

輪っかは一人しか通れないので、とりあえず俺様が勝利を迎えに行くことになった。
美女が言うには、この紙はあちらのお金で『ごせんえんさつ』というものらしい。
勝利は相変わらず元の時代に戻ってもあのからくりで遊んでいるらしい。そこに行って勝利の左隣に座り、この『ごせんえんさつ』を使ってかっちり100回、からくりで遊べとの事だ。
そうすればすべては上手くいきます。と微笑む女の言葉に、いつも『じてんしゃ』を漕いでいた旦那は不安げな顔になり、大体の遊び方をわかっている俺様がその任に当たることになったというわけだ。

「頼むぞ、佐助」
「はいはい」
「勝利殿をちゃんと連れてくるのだぞ!」
「わかったわかった」

輪っかに足をかけた俺様の背中の裾を名残惜しそうに掴む旦那に苦笑を浮かべ「んじゃ、ちょっと行ってくるぜ」と肩を叩くと「・・・うむ」としぶしぶ手を放す。
ぐねぐねと歪む空間に足を入れるとなんだか生暖かく、うえぇ・・・と呻き声を上げながらも一気に飛び込んだ。

その瞬間、旦那の「そういえばいつ、どうしたら戻れるのだ?」という声と「え・・・?あ、ああっ!」という女の叫び声が聞こえた気がした。

おいおい、勘弁してくれよ・・・。
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