誓約:真田の犬3


「大将、あのでっかい得物についてなんですけど、バサラ屋が言うにはやっぱりなんかの動物の骨・・・いや、歯・・・っていうか牙?かもしれないって」
「牙?!あの大得物が牙となると本体はいか程ものか・・・!」
「まったくだよ。あのワンコ、どこから来たんだか・・・異国には小山くらいでっかい獣がいたり、焚火を通って移動したりする国があるっていうのかねぇ・・・」
「わんこ・・・そうだ、佐助、最近あの者に随分と無体な事をしているようだな」
「はぁ?なになに、俺様最近あのわんちゃんのおかげで休みとってないのよ?身を粉にして働いてるっていうのにそんなガセな噂に、」
「噂ではないだろう。牢を見回る者から『加減を考えてやってくれ』と嘆願がきておる。酷い声で泣かせていると」
「ああ、あのわんころ大げさなんだよねー、ちょっとした事しかしてないってのにキャンキャン仔犬みたいに喚いて」
「佐助」
「・・・・・・・・・ったく・・・はいはい、分かりました、加減してやりますよ」
「・・・佐助!」
「はいはいはいはい!加減します!優しくしてやります!その代り、ちゃんと説得できたらホントに昇給お願いしますよっ!」



大将に報告に上がった時、こんな風にちょっとした言い合いになったのは二日前の晩の事になる。
そう仕向けたのは自分なのに、近い内に確実に訪れる『終末』を考えると胸の奥がもやもやとするのはなぜなのか。

「キュゥー、ゥ、ンッ、ンッ、アッ、アッ!」
「そうそう、わんちゃん、今のだぜ、いつも歯を食いしばってるから『がうがう』なんて色気のない声になっちゃうんだよ・・・っ、そうそう、口開けて、舌も出して・・・そう、色っぽいぜ・・・?」
「アッ、あっ、あうううっ!───ッ!」

何をしても瞳の輝きを失わなかった少年が、虚ろな瞳に淫蕩な色を浮かべて、こうして自分の下で腰を振るようになったのが思ったよりも嬉しかったからかもしれない。
痛みよりも快感に弱かった少年を、じっくりと執拗に責め立て、心を折り砕いていった。
今では術で縛り付けなくとも脱獄する気力はないようで、支配されている事を忘れないよう首や手足に錠を括り付けてはいるものの、ただ一日中くったりと牢の端で転がっているばかりだ。
だからと言って体力が落ちているわけではないらしい。

四つん這いになった少年の尻を犯しながら、蝋燭の火で照らされた白い尻を揉む。
尻穴を抉られる事で緊張していた尻たぶが柔らかくほぐれてきた時、脅すように手を振りかぶり、勢いよく振り下ろすフリをする。
そうすると、ぶたれるのでは、と怯えた身体がビクリと痙攣し、モノを包む肉壁がぎゅう、と収縮するのだが、これがイイ。

「あーっ、あ、中キツいって、っくー、・・・・・・ははっ、ぶたないよ、ぶたない」
「おっ、ぐっ、く、くぅぅうン、っ、んっ、」

眼下の美しくうねる褐色の背筋、くびれた腰元、そしてみっちりと張りのある尻肉が自分の身動き一つで硬直し、弛緩する。
あの怪腕の少年を支配し、いいように扱う事に酷く興奮を覚えていた。
振り下ろした腕で優しく尻を撫で、こそこそと擽れば、痛い程に締まっていた腸壁がゆるゆると蠕動し始める。
その動きに腰を揺らしながらまた腕を振りかぶり、今度こそ勢い良く尻肉に向かって振り下ろすと甲高い破裂音が響くか響かないかという瞬間に、またギュウゥ、と腸壁が引き攣れる。
いい反射神経だ、と感心すると同時にこちらも竿を絞られる快感に思わず腰が震えたが、そんな自分よりも少年の方が激しく内腿を震わせた。
地面に頭を擦り付けていたせいで丸くなっていた背中がくぅん、と撓り、全身が激しく痙攣し、声にならない雄たけびを上げる。

「────ッ!オッ、オォオ、フッ、キャウウウゥゥ───ッ!ンッ!ン──ッ!ンッウウウウウッ!」
「・・・へ、ぇ・・・尻ぶたれてイっちゃったの?痛いのがイイんだ?あっは、新発見だ、こりゃ躾甲斐があるかもね」
「ンッ、ぁ、ゥ、ウウゥ・・・」

びしゃびしゃと土の上に少年の精液が散る。
何故だか射精をする事に罪悪感を覚えるらしく、この瞬間少年の瞳から生気が抜けていくのを感じる。
前髪を掴み、顎を上げさせるとその生気の抜けた力ない瞳が見える。
ぼんやりとした瞳に浮かぶ黒く、丸い、環。
吸い込まれてしまいそうで、自然と少年の顔に顔を近づけてしまう。
フ、と吐息同士が絡んだ瞬間だった。
視界の端に明るい蝋燭の光が入り、ザリと土を踏む音が聞こえた。

「佐助・・・声が上まで響いているぞ。あまり無体な事は・・・は・・・・・・・・・ばっ?!」
「た・・・大将・・・」

いつかこの時が来ると確信していたはずだったというのに、驚いて思わず身を引いてしまう。
少年の尻にはまっていた一物も萎えて抜けてしまい、するとめくれてぱくぱくと戦慄く尻穴から長時間かけて注ぎに注ぎ込んだ白い体液がブッと勢いよく噴き出された。
その下品な音は硬直していた大将の耳にも入ったようで、見開かれた目がその音を鳴らす穴を見て、更にクワッと見開かれるのに「あちゃー・・・」と目を塞ぎたい気分になる。

「あ、あは・・・だんな、・・・これは、その、」
「・・・さ・・・さ・・・・・・・・・さぁあぁすうぅけぇええ!!!お前という奴はぁあああああ!!!」
「だ、だんなっ!じゃなくて大将!これは、その、えっと・・・あは・・・・・・ぐぼあぁっ!う、うそだろー?!」

めらり、と狭い獄の中が炎を纏った大将の熱気で熱くなると同時に、大きな怒声が響く。
力なく倒れていた少年がその迫力に驚きガバリと身を起こしたのが見えた。
そしてその絶望を浮かばせていた瞳に、真っ赤な炎を燃やした大将に殴られ、吹っ飛ぶ俺を写すのも。
うつろに澱んでいた瞳が壁に叩きつけられる俺を見て、ゆっくりと瞬きをし、じわじわと大きく見開かれ、焔を纏う大将を振り返り、じぃ、と見上げるのを。

「佐助っ!お前はっ!俺はこんな、こんな事までしろとはっ!恥ずかしいとは思わんのかぁあっ!!!は、は、はっ、恥を知れっ!」
「ぐ、ああぁ、痛って、大将、待って、タンマ、これ以上は、ぐぉぁっ!ぶへっ!」

ゴスン、バキン、と大将の鉄拳制裁を受ける度に、少年の瞳が大将を見上げてキラキラとした光を取り戻していく。
そして腫れあがってうまく開かなくなった視界に、大将が少年に手を伸ばすのが見えた。
ゆっくりと頑丈に掛けた首輪や手足の錠を外していく。
少年はもう俺の事など見向きもせず、ひたすらにそんな大将を見上げている。
自分に伸びてくる手に一瞬怯えたようだったが、そんな少年を見て大将が本当に、心の底から、申し訳ないという風に顔を歪ませると、少年は慌てたように目をつぶり、どうにでもして構わないと無防備に手足から力を抜いた。
そんな人の心や場の空気を読める少年に少し驚かされる。
見た目人間で中身はまったく意思の疎通ができない犬っころだと思っていたが、案外おバカなだけで普通の子なのかもしれない。

「・・・もう、もうそんな態度はせずとも良いのだ・・・本当にすまぬ事をした・・・佐助のした事は俺がした事も同然・・・お主とはまた手合せをしたいと思っていのだが・・・もう、無理な話になるのだろうか・・・」
「キュー、キュ、キュン、キュゥー・・・・・・っ!わうっ!がうぅっ!」

少年は大将の悲しそうな声色につぶっていた目をそっと開け、そして悲しそうな顔をしている大将に不思議そうに首を捻り、ハッとしたように何事か鳴き声を上げるとよろめきながら身を起こす。
慌ててその体を支えようとする大将の手を恭しくそっと払い、その場に膝をつき頭を垂れ、見た事のない姿勢をとり、左手を胸へ、そして右手を大将へと伸ばす。
初めて見る体勢だったが、俺も、大将も、それが忠義立ての意が込められていると分かるものだった。
何が起こっているか分からない、という風にきょとんとする大将に「やったじゃないの。これでそのわんちゃんはもう『真田の犬』さ」と声をかけてやる。

「佐助、俺はまったく状況が読めぬのだが、」
「・・・わんちゃんにとっては、俺様が悪者で・・・大将が救世主、なんだよ・・・」
「もっと分かりやすく・・・佐助っ?!どうしたっ!佐助ーっ!」
「あんっ!ぐぅううう!がううっ!」

どうしたって、アンタがぶん殴ったんでしょうが・・・というボヤキは大将とわんちゃんの喚き声で誰にも届かなかったようだ。

俺が少年にとって大切な信念、心を折ろうとする悪者で、大将はそれを助ける救世主だ。
この筋書き通りに運べば、この動物じみた少年は恩義を感じて大将に懐いてくれるだろうと予想していたが、こうもうまく行くとは思わなかった。

俺の犬にしてしまおうか───迷わなかったかといえば嘘になる。
いい身体をしているし、あの身体能力はいくらでも使い道がある。
薬でも術でもなんでも使って洗脳してしまえば、と思っていたけれど、少年の泣き声を上にダダ漏れにしていたのもワザとだし、二日前にあんな言い争いをして大将がここに来るように仕向けたのもワザとだ。
あのまん丸の瞳に浮かんだ環に心を乱され、少しだけ独占欲が湧いてしまったようだ。
この子が誰の犬になるのかを天に任せていた、といえば聞こえがいいだろうか。
結果、あの子はもう俺だけのわんちゃんではなく、大将の、真田の犬となった。

己の策略がうまくいったことにほくそ笑もうとして上手く笑えなかったのは大将に殴られた頬が痛むからだ。
俺にとってはあの子は『悪い風』だったらしい。
まぁ、『悪い風』って言っても胸元に少しだけ感じたこのすきま風くらいのものさ、と今度こそ笑みを浮かべ「大将・・・昇給頼んだ・・・ぜ」と何よりも一番大切な事を告げ、俺は意識を闇に落とした。
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