誓約:真田の犬2


「大将も見てた通り、出現箇所はあの焚火の中から。んでもってあそこから現れた以前の素性は何をどう調べても一切分からない。一切だ」
「・・・うむ。して、その小袋は?」
「───これ、腰に下げてた荷物の中身で、この苔を丸めたやつ毒消しなんだけどさ、これなかなかにイイもんなんだよね。俺様特製の麻痺毒塗ったクナイも解毒できてたし・・・これってかなりあり得ない事だからね?・・・でもこんな苔なんて初めて見た。雑に扱ってるから量産できるものみたいだけど、どこの地方で採れるのか・・・あとこの水が入ったのギヤマンでしょ。こんな綺麗な形に瓶になってるのなんて珍しいモノどこで手に入れたのか。中身はどうやら体力回復剤っぽいかんじ」
「試したのか?」
「ま、一応ね。あ、大将は飲んじゃダメ!・・・あとは装飾品がいくつかと・・・この紙。異国の言葉だろうね。何か書いてあるけどもちろん読めるワケがない・・・ってなんでそんな不満そうなのさ!いくら優秀な俺様ったってこんなの読めるワケないでしょ!ったく・・・・・・竜の旦那かあの怪しげな宗教団体の誰かに解読を頼めばもしかしたら・・・って感じかな?ま、この件はおいおいね。んで身体はまったく良好。健康そのものだね。細かい傷痕は多々あるけど、大きな病気も怪我もないんじゃないかな?あとはあの子が起きてから色々聞いてみるとして・・・あは、犬か狐の妖怪ってセンもありかな?なーんちゃって」
「・・・そういえばあの焚火はどうなっていた?」
「おかしかったのはあの時だけさ。何を投げ込んでも普通に燃えるだけだし、一応まだ薪をくべて焚いてあるけど関係なさそうかな?」
「うぅむ・・・火の粉が山に移ってしまうやもしれぬ・・・消してしまっていいだろう」
「リョーカイっと」
「それに妖怪だろうがなんだろうが、せっかくこちらに来た者をおめおめと帰す事もない」
「・・・は?」
「佐助、頑張って説得するのだぞ!」

報告用に持ってきた少年の荷物をいじっていた大将から、何か似つかわしくない言葉を聞いた気がして顔を向ける。
こちらの雰囲気に不思議そうに顔を上げた大将の瞳は、先程も見た邪気のないきょとりとした瞳で『どこまで分かってやってるのやら・・・』と思いつつ「・・・一応頑張ってみますがね・・・うまくいったら昇給、お願いしますよ!」と承諾を返した。

「昇給・・・?まぁ佐助、余り手荒な事はするなよ」
「なんか適当なんだけど!ったくもー頼むぜ・・・」

軽い言い合いをして目礼し、障子を閉める時、ちらりとのぞき見た文机に向かい始めた大将の顔はゆったりと笑んでいた。
少し大人になったものの、その気張っていない年相応の笑みにこちらの胸が軽くなる。


しかし、いざ尋問を始めたものの少年の怪力に佐助は度肝を抜かされた。
まさに開いた口がふさがらないとはこの事か、という程あんぐりと口を開けたのは初めての事だった。
少年を牢に入れ、少しでも印象を良くしておこうと汚れた身体を水で清めてやり、傷口には毒消しを塗り込んでやる。
起きたらすぐに声をかけ、とりあえずは根気よく話し合いを、と思っていたのだが、目覚めた少年は念の為と何重にも巻いていた荒縄をいとも簡単に引き千切り、頭の半分はあるだろう一番頑丈な牢を素手で折り壊すのに驚いて、止める事も忘れて見つめてしまった。
大将も自分も、よくあんな馬鹿力相手に怪我をしなかったものだ、と今更ながらに冷や汗をかいた。
しかし、馬鹿なのは力だけではなく頭の中身もだったようで、何度も何度も脱走をしてみるものの、解毒薬を取り上げられた少年は毒を使えばすぐに気を失って捕縛できた。
いつも同じ方法で、いつも簡単に捕まえられるといっても脱走の度に檻を壊されたら修理がおいつかない、と術を使って身動きを取れないようにして、そこでまた『だ・か・ら!こんな風にしちゃって!こっからどうやって和睦を図るんだってば!』と佐助は屋根裏の床でじたじたと静かにもんどりをうつ。
初対面時と幾度かの捕縛劇のせいで、少年のこちらに対する好意は地の底を突き破っているようだった。
近づけば歯をむき出しに唸られる。
声をかければガウガウと吠えられる。
最終的にはこの術だ。
声も出せず表情さえ変えられなくなった少年は、それでも瞳に激しい怒りの炎を燃やして調子を聞きに来る佐助をじぃ、と見つめてくる。
そこに、くるりと浮かんだ環。
ピクリ、と指先が小さく痙攣した。
あの環は一体なんなのだろうか。あれを見る度に何か言いようのない衝動が湧いてしまう。
言葉が通じればその瞳の環の話も聞きだせたというのに・・・。

「あ、そうだ」

ひとつ、いい方法を思いついた、と佐助は引き込まれそうになる少年の瞳から視線を剥がし、その全身をくまなく見分する。
垢と泥まみれの正に野良犬という風体だったが、全身を清めてやればなかなかに見られる顔をしていた。
筋肉が引き締まった身体は日に焼けた滑らかな肌をしていて、唯一色が白い尻がキュッと持ち上がっているのはなかなかにそそられる。

「・・・うん、イケるかも」

少年は、ただただその場に漂い、いつか澱んでしまうのを待っていただけの真田の空気を吹き飛ばす事のできる強い新風だった。
二進も三進もいかなかった軍の空気を、大将の心を、吹き荒らしてくれたのだ。
だが、新風は良いモノも悪いモノも運んでくるという。

「多分『良い風』だと思うんだけどねぇ・・・でも出合い頭が悪かったよなぁ・・・・・・ねぇ、わんちゃん、この『方法』がダメだったら──・・・って話になっちゃうから、どうにか可愛くなついてくれよ?」

大将には手荒にするなとは言われたが、こうなっては仕方がない。
佐助はそっと目を閉じ両手で顔を覆うと、そこに何かを押し込めるように深く息を吐く。
次にその手がどかされた時、精悍な顔に浮かぶ表情は嗜虐心に満ちたものだった。


その方法とは、いたって簡単なものだ。
少年を屈服させるのだ。
こちらが少年にとって『絶対者』になればいい。
痛み、恐怖、快楽、なんでもいい、何か強烈なものをこの少年に与え、少年の価値観を、思想を、すべてを塗り替えられれば。


まず佐助は術で縛りつけた少年に、ありとあらゆる拷問を行った。
傷の治りが早い身体らしく、一晩眠らせれば切り傷も火傷も綺麗に治っていてまた驚いた。
寝させないのはどうだろう、と夜中少年をいたぶり続けたが、三日三晩続けてこちらの体力がなくなりそうになっても、少年の瞳からは強い意志の光が消えなかった。
それならば、こっちはどうだろうか、と少年の足を割り開く。
少年の一物は使った事のなさそうな淡い色をしている。
足を開かれてもいつもと同じ警戒の色しか映さない瞳は、何をされるか分かっていないのだろう。
きっとすべてがまっさらなのであろう少年の初めてを、こんな風に乱暴に奪う事に少しだけ興奮を感じてしまう。

「ねぇ、わんちゃん。あんたは真田の犬になるんだよ」

小さな穴にねじ込もうとしても、何もしていないそこにはなかなか潜れない。
仕方なく滑りをよくしようと己のモノだけに薬を垂らし、少年のほぐれてもいない部分に思い切り捻じ込んだ。
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