犬になる2


目が覚めるとそこは、薄暗く、ジメジメとした冷たい土の上だった。
死んだら人間性が失われ、代わりに暖かな篝火から目を覚ますはずだ。
しかし小さな灯り取り一つしかない薄暗い周囲には、篝火などなく肌寒い。
また人間性が失われた感覚がない事に少年は小首を傾げる。
丁寧に毒消しをされて拘束されている自分の状態の意味も分からない少年は、両手両足に巻かれた荒縄を難なく引き千切り、頑丈な木枠で組まれた牢を蹴り壊し、のしのしと地下から出て行こうとして、またどこからか毒が塗られた刃物を投げつけられた。
あのすばしっこく動く、おかしな術を使う男がどこからともなく現れて、嫌な笑顔を浮かべてうずくまる少年に何かを問いかけるが、元の世の言葉も分からぬ少年は全身を襲う毒痛に小さく体を丸め、ただただ喉の奥から低い唸りを発して威嚇する事しかできない。
いつも握っている古竜の大牙の獲物がなければ、少年は力が強いだけの無知な不死だ。
それでも、その力を振り絞ってがむしゃらに暴れてやれば男は慌てたように仲間を呼ぶ。

あっという間に再び拘束された少年は、その後からこの陽の入らぬ暗いじめついた地下牢で拷問を受けている。
嫌な笑顔を浮かべた男が行う拷問は、少年の『折れない心』をゆっくり、ゆっくりと、爪にねじ込まれる針先のごとく、浸食していった。
苦痛に気を失う時以外は眠らせてもらえない。
耐えがたい体中に走る痛みに、気絶する瞬間『このまま二度と目が覚めなければいい』と思うようになったのはいつからだろうか。
無性に、あの暖かな篝火が恋しい。
少年は今まで数多の死を経験したが『拷問』をされた事はなかった。
不死として捕まり北の不死院に捕えられた時も、ただ、飲まず食わずで放置されただけだった。
『殺す為』ではなく『苦しめる為』に人を傷つけるという行為を少年は受けた事がなかったのだ。


この男は、少年の『折れない心』を壊しにかかっていた。
縄で拘束されるのともまた違う、指一本、瞼を閉じる事さえできなくなる術をかけられて、体の表面───皮だったり、肉だったりを傷つけ、痛めつけるだけではなく、その内側までも支配しようとする。
足を大きく広げられ、自分の力では塞ぐことのできない穴を穿たれた。
その行為の意味は分からなくとも、それが人間にとってとても酷く、屈辱的な事だと、警鐘を鳴らす本能が、ずっと鳥肌を立てている体が示していた。
視線を反らす事すらできない少年の目の前で、男の陰茎が少年の血に濡れた穴にゆっくり、ゆっくりねじ込まれていく。
痛みで痙攣する腸壁を何度も抉り、体の中、少年自身も知らなかった場所に体液を注がれる。
腹の奥に感じる熱い飛沫に、穴を裂かれた激痛を凌駕する程の激しいショックと屈辱を感じ、少年の肌は泡立ち、見開かれた瞳からは涙が噴き出す。

「アンタはね『真田の犬』になるんだよ」

たまにその体液は少年の体や、顔にふりかけられ、匂いをつけるように肌に刷り込まれた。
その度に少年は見開いた瞳からぼろぼろと涙を零し、動かないはずの喉を振り絞って呻き声を上げる。

「あは、辛い?こんなに傷だらけでボッロボロになっちゃって、かわいそうに。でも・・・・・・まだまだ?ンー・・・、もうちょっと、だね。まだアンタの『心』は折れちゃいない。──あは、アンタ強いね。増々真田に欲しくなる」

男は奇しくも沼の魔女と同じように少年の強い心を称賛し、しかし魔女とは違いその心をどうにかねじ折ろうとしているようだった。
両方の口角を上げて狐のようににんまりと笑い、男は少年の尻に陰茎をはめ直すと、手を伸ばし、いつものように小さく痙攣する事しかできない瞼に指をかける。

「・・・・・・何回、見ても、っ、不思議な、目ン玉だこと」

視線を合わせた男が自分の上で律動するのを、少年はただひたすらに見ている事しかできない。
次第にその律動を早める男は、自分を見つめている瞳をうっすらと細め、ひとつ、舌なめずりをした。

──最近腹の最奥を突かれると、へその後ろがむず痒くなる。
男はそれに気づいているのか、律動を止めると腰の角度を変え、少年の腹の奥のしこりを潰すように、陰茎の先の丸みで幾度も抉る。
そうされると感じた事のないむず痒い感覚が我慢できない程激しくなり、理解できない自分の体に、少年は頭がどうにかなってしまいそうな混乱と不安を感じて押しつぶされそうになる。
ふ、と少年の顔に、いつも男が擦り付ける粘液が噴きかかった。
視線を合わせていた男が驚いたように目を開き、そしてまたあの嫌な笑みを満面に浮かべる。
頬に伸ばされる粘液は、いつもの男のモノと違う匂いがした。

「あは、術で縛られてるってのに出しちゃうなんて、開花しちゃったカンジ?自分の顔にぶっかけちゃって・・・・・・ああ、いい目になってきたぜ・・・俺様の好みだ」

混乱と不安、そして初めて少年の中に生まれた『絶望』という名の感情に、いつもどんな時もきらめいていた瞳から光が消える。
瞼をこじ開けられた、不思議な『環』が浮かんで見える薄暗い瞳からはひっきりなしに涙がこぼれ、男の指先をぐっしょりと濡らすのだった。

- 3 -
[*前] | [次#]
ページ:

トップに戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -