平成にやってきた猫武将達4


猫になると気の持ちようも変わるものなのだろうか。
ピリピリとした空気は次第に崩れだし、尾をぶんぶんと振ってあれやこれやと風魔に問いかけていた前田が再びぼてん、と横になったのを切っ掛けに、それぞれが前足を伸ばしたり、壁に爪を立ててみたり、ふわふわした四角い座布団のようなモノに体をこすり付けたりと気ままに行動し始める。

「小十郎、こいつお前に似ているだろう」
「これは・・・女の部屋に飾る絵としては、少々・・・」

先程睨み合っていた絵を二人で見上げながら、そっと水音のする方に向かおうとする猿の尻尾を踏みつける。

「だあっ!?いったー!何すんのさ!」
「Ah〜?お前こそ何してんだよ」
「俺様は偵察しなくちゃいけないの!ほら、今ならあの女の人もいないし・・・」

しかしそこで奥から響いていた水音が止まる。
ガチャ、と戸が開く音がして、猿の口から小さな舌打ちが聞こえた。

「Ha!風呂でも覗くつもりだったんだろうが残念だったな!」
「はあ?!だから偵察だって!」
「だったら今の舌打ちはなんだよ、ah?」

フー!シャー!という唸り合いが始まると同時に部屋の戸が開く。

「こぉら、ケンカしちゃダメって・・・あら?ミカンちゃん、今度は眼帯ちゃんとケンカしてるの?」

だめよぉ、と甘い声を上げる女は、今度は白い布一枚を身体に巻いただけで現れた。
お湯を浴びたせいか、上気した肌に濡れた髪が張り付いていてなんとも色っぽい。

「ん〜、たまんないねぇ!なぁ、風魔、ホントのところ、どんな感じだった?見たんだろ?」

鼻の下を伸ばしきった前田がいつの間にか風魔の隣に移動して、うりうりと肩を突いている。
そんな前田をチラ、と見た風魔は女に視線を移すとフルフルとはっきり首を振った。

「ん?どういう事だい?」

きょとんと前田が猫目を瞬かせるが、風魔はまた丸くなるとその後はいくら前田が騒いでもうんともすんとも身動きしなくなってしまった。

女は化粧を落としたからだろうか、相変わらず美しい顔だが、柔らかだった印象が薄くなり、切れ長の瞳からは野生的ともいえる色気を漂わせていた。
その面をどこかで見た事がある気がして、政宗はキュ、と瞳孔を縮めるが、女はすぐに背中を向けると先ほどの何かの乳を取り出した縦長の箱に頭を突っ込み、機嫌良さそうに尻を振りながら筒状の何かを取り出す。

「ああん、いいお湯だったわぁ〜!そ・し・て、んふ、お風呂上りはやっぱりコレよねぇ!今日のアタシ、お疲れ様ぁ!」

ねこちゃんも、かんぱぁい!と女はその筒状のモノを掲げ、そしてプシッ!と音を立てて穴を開けると勢いよくそれをあおり始めた。

「うわぁ〜・・・いい飲みっぷり・・・」
「あれは・・・酒か?」

「んっ、んっ、んっ、んっ、」とグビグビうまそうに喉を鳴らす女を、この時ばかりは風魔もジっと何を考えているのか分からない顔で見上げていた。
「いいなぁ・・・うまそう・・・」という前田の呟きと同時に、女はカッっと顔を上げ、ぎゅう、と目をキツクつぶって大きく息を飲み込むと、プルプル震えだす。
なんだなんだ?と六匹の視線が集まる中、女は突然「っかああー!」と大声を上げた。

「っかああー!涙が出る!犯罪的だ!うますぎる!」

そのままベコン!と筒を手の平で潰してガコン!と放り投げ、二本目に手を伸ばす。
その人が変わったかのような粗野的な仕草よりも、台詞よりも、女の声がいつの間にか太い男の声になっている事に、風魔以外の猫達はあんぐりと大きく口を開け、ただただ黙って女を見つめることしかできない。
片手を腰に当て、天を仰ぐようにして酒を煽る姿には、先ほどまでの色気のある淑やかな女の欠片もなかった。

「さ、さ、さ、佐助、あの御仁は・・・おと・・・?おん・・・おと・・・?」
「え、え、わかんない、流石の俺様もアレは、え、あれ?」

二本目の酒も飲み干したのか、くううー!と唸って口元を拭い、涙目になった瞳を瞬かせるのを見て、愕然と口を空けていた政宗がハッ!と壁を振り返る。

「あの女・・・!コイツに似て・・・!」

挑発的な視線を向ける、壁に貼られた男の絵。
他の猫達も、バッとその絵を振り返り、そうしてまたバッと女に視線を戻す。

「・・・なンだい、子猫ちゃん・・・?」

猫の視線を一身に浴びた女はその視線に気が付くと、ぞっとするような流し目を送り、低い男の声で囁く。
その瞬間、背筋に走ったのは怖気なのかそれともまた別の何かなのか。

「・・・あら?・・・やっだぁ!アタシ、『素』がでちゃってたぁ?!お酒ってコワイわぁ!んもう、ねこちゃんったらそんなにびっくりした顔しないでよぉ!」

鋭い流し目から一転、トロンとした目つきになった女が元の甘い声を出し、くね、と腰を捩るが、前田ですらちょっと引き気味になっている。
この女は一体なんなのか。男なのか女なのか。そんな空気が部屋中に蔓延した時だった。
しなを作る女の体に巻きついていた布が落ちたのは偶然だったのか、はたまた風魔が風でも飛ばしたのか、ふわりと花の香のような魅惑的な香りを放ちながら白い布は舞い落ち、政宗達の目の前で女は生まれたままの姿を晒した。

「あぁん、いやぁ〜ん」

「!!!!!!!」
「な?!上も・・・下もあるっ・・・?!」
「・・・・・・くっ・・・」
「oh・・・」

再び固まった真田以外、冷や汗をだばだばと流しながらも女の体から目が離せない。
政宗はその白い腹、へその斜め上に壁の絵の男と同じホクロをみつけ、やはりあの男がこの女なのか、と己の勘が当たった事に対する喜びと、それ以上の謎、あの豊満な胸は一体どういう事なのだ、股間に何かぶら下がっているが、しかし尻だって丸くなっているではないか、と、やはりだばだばと冷や汗を流すことしかできない。

しん、とした部屋には、酔っ払った女のいやんいやん!という鼻がかった声と、風魔の小さなため息だけが響く。
平成にやってきた猫になった武将達は、今後何度も目を疑うような驚愕体験をするのだが、それでもこの初日、この家主によってもたらされたこれが、この平成に来て、いや、人生で一番驚いた事だった、と口を揃えて言うのだった。
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