平成にやってきた猫武将達3


この女が元凶ではなかったのか。
となると、一体全体、自分達はどういう事になってしまっているのだ。
明るくなった室内は先ほどよりも見回しやすくなっているが、一体全体何もかもが自分の知らない物ばかりだった。
見回した先の壁に、まるでそのまま人を貼り付けたのではないかと見間違う程写実的に描かれた半裸の男が描かれた絵を見つけて政宗はギョッと目を見張る。
腰に布を巻きつけただけの男は筋肉を誇示するような体勢を取り、挑発するかのようにこちらを見つめてくる。
その視線に政宗の独眼も細められ、ジリリとした睨み合いが始まった時だった。

「こっちのねこちゃんはオトコマエだわぁ!」

自分と男の間に満面の笑みを浮かべた女が割り入ってきた。
そうして煌く指先が自分に伸ばされ、しゃくり、と耳元の毛並みに分け入ってくるのに小十郎が「テメェ!政宗様に!」と鋭い爪を翻そうとしたのを視線だけで止める。

「構わねぇ、小十郎。・・・ああ、こりゃあいいmassageだ・・・」

強くもなく、弱くもない丁度の強さで撫でられると思わず喉が鳴ってしまう。
猫が喉を鳴らすのはこういう理由だったのか。

「キモチイイ?うふ、もうウチの子にしちゃおうかしら・・・」

ころん、と警戒心もなく目の前に女は転がり、たわわな乳房を揺らしながらこちらににじり寄ってくる。

「おいで」
「・・・積極的な女は好きだぜ・・・?」

そ、と伸ばされた手を拒むことなく近づくと、胸元に抱きかかえられてそっと揺さぶられる。
柔らかな身体からは先程香ったあの花の匂いが立ち上り、あれはこの女の香の匂いだったのか、とその洒落た香りに政宗はうっそりと目を細める。

「いいなぁ独眼竜!」

俺も俺も!と、うにゃぶにゃ鳴く前田に女は柔らかな笑みを向けるが、は、と壁を振り返り慌てたように政宗を床に下ろす。

「やだぁ!もうこんな時間・・・ねこちゃん、お腹すいてる?牛乳しかないけどここに出しておくから、あとは・・・魚?猫缶?あーん、アタシ猫飼った事ないからわかんなぁい!あとでおいしーいの買ってきてあげるから、今日はゴメンなさいね、我慢してちょうだい?」

バタバタと部屋中を行き来し、壁に寄せてある四角い箱から何かを取り出してはガサガサと何やらし始めた女を、政宗達はジッと見つめてこそこそ囁きあう。

「・・・なーんか俺様、気ィ抜けちゃった・・・」
「うむ、人の良さそうな御仁だが・・・」
「俺は気に入ったな!うん、あの子はいい子だよ!いーい匂いだし、身体も柔らかいし・・・」
「ままままま、前田殿!破廉恥でギニャ!」
「あ、ごめーん、コレ旦那の尻尾だったのねー」
「・・・だが、まだ事態の把握ができてはいない。そう簡単に気を許しても・・・」
「小十郎、逆だ逆。事態の把握が出来てないんだ、世話してくれるっていうなら、事態の把握が出来るまでの間、世話になるっていうのも手だろうよ」

カタン、と目の前に白い液体がなみなみ注がれた皿が置かれ「冷たいのでも大丈夫なのかしらん・・・」とまた身を捩る女に、政宗達は随分と柔らかくなった視線を送った。



こりゃ何だい?んー・・・なんかの乳みたいだけど・・・。うむ、うまそうな匂いだが・・・このまま飲むのはな・・・と皿を囲んだ三匹が会話をしているのを、微笑ましげに見つめていた女は、さてと、と小さく呟くと白い上着の胸元をいじり始めた。

「んー・・・毒はないみたいだけど・・・って旦那!このまま飲むのは嫌とか言った端から舌伸ばさないで・・・よ・・・って、あらーこりゃまた・・・・・・あ、ダメ!旦那は見ちゃダメ!」
「な、佐助!何をする!」
「oh!小十郎!猫になるのもいいモンかもしれねぇぜ?!」
「政宗様!政宗様も目をお閉じください!」

立ち上がった女は白い上着の袷を開くと、ためらいなくそれを脱いでゆく。
豊満な乳房、くびれた腰が見え、目の前でふんふんと太い尾を揺らす前田の頭を殴りながら政宗もジッとその白い肌を鑑賞する。

「・・・あら?やぁだ、ねこちゃんったらエッチなんだからあ!」

視線に気付いた女が胸元を隠しながらも、うふ、と扇情的に笑い、そうして真田の顔を塞いでいた猿をひょいと避け、つぶれていた真田を抱きかかえた。

「茶トラちゃんはミカンちゃんと仲良しなのかしら?でも、ケンカはしちゃだめよ?」

そうして開けた視界に飛び込んできた女の半裸姿に驚愕したのだろう、口をぱっくりと開けて硬直してしまった真田の鼻先に女はちゅ、と唇を落とす。

「・・・あちゃー・・・旦那?旦那?大丈夫?息してる?」

そ、と固まったままの真田を床に下ろすと「大人しくしててね?」と女は言い残して部屋を出て行った。
遠くから水音が聞こえ始め、湯でも浴びているのか・・・。しっかしあの身体、たまんないねぇ!とわいわい話が始まっても、真田は固まったままだった。


和気藹々とした雰囲気を引き裂いたのは「きゃあん!」という女の叫び声だった。
ハッと女が去った方を見やるが「もう!ねこちゃんのエッチ!」という気の抜けた雰囲気の声に、緊張させていた後ろ足の力を抜く。

「なんだい、抜け駆けかい?」

ずるいなぁ、なんか俺、猫になってからのが身動き取り辛いんだけど・・・と愚痴る前田を無視して、小十郎を振り返る。
コクリと頷く小十郎も、違和感に気がついている。
ここにいるのは真田、猿、前田に小十郎、俺の五匹だったはずだ。
四対の瞳と目を合わせ、それぞれに小首を傾げる。

「・・・もう一人、いるってコトかなー?」

ガラ、と水場の扉の開く音がして、追い出されたのか小さな気配が近づいてくる。
小さく開いたままだった扉から現れたのは、闇を纏ったような毛並みの黒猫、風魔だった。

「!風魔・・・!テメェ・・・!」
「うわ、風魔の旦那ァ?!アンタも来てたのかよ!」

憤る小十郎に、ぜんっぜん気がつかなかったー・・・と肩を落とし自失する猿。
それでもそれぞれに警戒の態勢を取るが、風魔はこちらを気にした様子もなく、一つ小さなため息をつくと、濡れた体をプルル、とふるって部屋の隅で丸くなった。

「・・・風魔の旦那、アンタも巻き込まれた「なぁ風魔!アンタ、あの女の人の水浴してるトコ、見たのかい?!」

ジリ、と間合いを取り、風魔に声をかけた猿を遮るように、前田が身を乗り出して風魔に鼻息荒く問いかける。
なんて空気を読まない野郎だ、とジットリした目を向ける猿を押しのけ「どうだった?どんな感じだった?」とぶんぶん尻尾を振り回す。
風魔はそんな前田を見向きもせずにジッと丸まったままだ。

「もー!前田の旦那、重いって!・・・にしてもさぁ、風魔の旦那がしくじるなんてねー。アンタなら猫のまんまでも、か弱い女の一人くらいヤっちゃいそうな感じだけど・・・」

気が抜けるくらい─見とれるくらいにいい身体だった?という猿の挑発にも風魔は応えず、逆に「なんて事を言うのさ!」と前田にフー!と威嚇をされる始末だ。
しかし確かに風魔だったら猫になったとしてもあの細腕の女の一人や二人、喉笛に噛み付いてあっという間にどうにかしてしまいそうだが、一体何があったのか。

興味津々な五対の視線を物ともしない風魔が何を見たのか知るのは、もう少し後になってからだった。
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