Pets!30


まるで本物の犬猫のように、ゆっくりと小首を右に左にと傾げ、かき上げた柔らかい髪に頬擦りをしては長い前髪の奥から自分を覗いてくる小太郎に、みつきは長い睫に涙の粒をひっかけたままそっと瞳を弧に描く。

「もう・・・小太郎・・・だめじゃないですか・・・」

咎める声も未だ小さく震えていたが絶対的な信頼と優しい甘さを秘めていて、床に座りそれを聞いていた三人は自分達と対する態度の違いに少しばかり面白くない気持ちが沸いて出たのに、それぞれに唇を噛み締め、尖らせ、ケッとそっぽを向いて舌打ちをした。

「なぁに、どうしたんです?・・・小太郎?・・・私の・・・お腹・・・───ッ?!」

そのみつきの甘い声を無表情に甘受した小太郎は、そのままみつきの裸の胸元から下腹部に指先を下ろすと幾度かヘソの下を子猫の喉を掻く様に優しく撫で、そしてクンと押し込んだ。
瞬間、みつきの全身にぶわりと鳥肌が立ち、突っ張った手足に脂汗が滲み出る。

「みつき殿っ!」

佐助や元親の心配そうな声が幸村の大声によって掻き消されるが、それを嗜める程の気力はみつきにはもうなく、ただただショックを受けるほどの急激な腹痛に身体を小さく丸めて小太郎の胸元に潜り込む。

「こたろ、っは、くぅ・・・っ」

幸村の精液で刺激されていた腸が小太郎の指先の刺激でとうとう根を上げたのか。
しかし三人の目の前ではなく部屋を出てからでもよかったのではないか─・・・と霞む瞳を凝らして自分を抱える小太郎に抗議の視線を送ると、いつも通り無表情の小太郎がこちらをジッと見下ろしていた。
それでも、みつきがこうして不機嫌になれば、無表情ながらに申し訳なさそうに顔を反らしたり肩を落とす事でコミュニケーションを取る小太郎なのだが、今みつきを見下ろす視線は反省の素振りなど微塵も感じられない。

「・・・こたろう・・・?」

どうしましたか?と名前を呼べば、みつきを見下ろしていた小太郎の瞳はチロリと床に座り込んだ三人に向き、そしてまたみつきに視線を戻し、最後に抱きしめていた腕にきゅう、と力が篭る。
幾度かその行為を繰り返され、みつきはやっと小太郎があの三人に対して焼きもちを焼いているのだ、と気が付き、思わず瞳を大きく瞬かせた。
パチリ、と瞬きするみつきに『やっと気が付いたのか』とでも言うかのように小太郎はふぅ、とみつきの額に柔らかなため息を吹きかける。

「もう・・・小太郎ったら・・・」

大きななりをして子どものように焼きもちを焼く姿はなんとかわいらしいのだろうか。
確かにこの三人はそれぞれみつきの好みに当てはまるが、小太郎だってみつきの好みのど真ん中だ。
みんなみんな、甲乙付け難いかわいい自分のペットで、更に小太郎はその中でも長い付き合いを経て、一番信頼の置ける自分になくてはならない存在になっているというのに。

「・・・小太郎が、いちばん、です、よ?」

みつきが小さく囁きふわりとした微笑を浮かべれば、小太郎の傾げていた小首がピンと真っ直ぐに伸び、しばらくどこか遠くを見ているようだったがやがてこくり、と小さく頷きを返した。
そして自分の胸元に縋りついてくるみつきをこのうえない優しい手つきで抱え直すと、堂々と背筋を伸ばし、床に座り込む三人に自分にしがみ付くみつきの姿が見えるように立ち位置を変える。
怪訝そうにこちらを見上げる三組の瞳を小太郎は長い前髪の奥から一人一人ひたりと見返し、その合間にも指先が白くなるまで己のシャツを握り締めている指先をあやす様に撫でる。
そっと触れればみつきの細い指先は小太郎の無骨な指に絡みつき、ぎゅう、と固く握られる。
それに小太郎は一度顔を落とし、また小さく頷くと再び顔を上げて三人の顔をぐるりと見回し、最後に正面の佐助で視線を止める。

「・・・・・・な、何さ、風魔の旦那・・・」

長い前髪のせいでどこを見ているのかは分らなくとも、明らかに、隠すことなく、自分に視線を注いでいるのが気配で分かり、佐助はごくりと喉を鳴らした。
一体その眼差しはなんなのか、この意味の分らぬ行動は何を訴えたいのか、とこちらもジィ、と睨みあげるような視線を返し、しばし無言の抗争が続く。
元親も幸村も、その緊迫した空気に身動きをとれなかったが、永遠に続くかと思われた抗争を止めたのは限界が近くなってきたみつきの小さなうめき声だった。

「みぃちゃ・・・ん・・・なぁ?!」

ハッと視線を小太郎からみつきに移した佐助だが、その視線からみつきを守るかのように黒い何かがその姿を覆った。
その黒いモノを視界に入れた瞬間、室内にぶわりとした突風が吹き、それと同時に三人の体には普段戦場で感じていたどこか馴染み深いとさえ感じる殺気が駆け抜けた。
各々に拘束されたまま格好のつかない警戒の態勢を取るが、しかし次に正面を見据えた時には小太郎とみつきの姿はなく、ただ数枚の黒い羽が舞っているだけだった。
- 30 -
[*前] | [次#]
ページ:

トップに戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -