Pets!1


デスクランプとワープロのモニターの明かりだけが灯る室内、松永は静まり返っていたはずの屋敷の中が急に騒がしくなったのを感じ、ふと顔を上げた。
離れに住んでいる甥が何かしでかしたのか、とも思ったが、キン、カン、と聞こえる金音と知らぬ男の叫び声に小さくため息をつく。
泥棒か、それともまた自分のストーカーだろうか。
前々から自分の小説の愛好者には変わった人間が多かったが、近年メディアにも露出するようになってからその数が急増したように思える。
優秀な用心棒である風魔に首根を握られ取り押さえられつつも、松永を目に入れると自分がどれだけ松永と松永の作品を愛しているのかを必死に唾を飛ばしながら語るのだ。
松永にとってそんな狂気の混ざった愛の告白は小うるさいだけなのだが、それを聞いた甥が嫉妬をして臍を曲げるのがいただけない。
甥に何らかの感情を抱いている風魔も、その機嫌を損ねたくないのだろう。
いつもなら迅速に音も立てずに処理をしてるはずなのだが、未だその金音と怒鳴り声が止むことはない。
どうやら賊は数人らしく、ストーカーではなく夜盗の方だったのかもしれない、と松永は自分の部屋の奥に眠る骨董品のコレクションに視線を送る。
その流れで時計を見上げるともう日付も変わって丑三つ時も中頃だった。
甥が深い夢を見ている事を祈りながら今度はふう、と大きくため息を吐き、しこった眼球を瞼の上から揉み、冷めたコーヒーを啜り終えた時、やっと部屋の外は静かになり、そうして松永はデスクチェアから立ち上がる事にした。


松永が向かったエントランスにはいつもの通りに黒い服を身に纏い、背筋を伸ばし腕を組んだ風魔が佇ずんでおり、その足元にはガムテープに厳重に巻かれた三人の男が転がっていた。
その三人を見て、ほう、と松永は瞳を瞬かせる。
奇妙な三人だった。
風魔にこてんぱんにやられたのだろう、満身創痍ではあるが、こちらを睨め付ける瞳は薄暗いエントランスの中でも獣のように輝いている。
その瞳の持つ雰囲気はストーカーとも、賊とも違う、今まで松永の出会った事のないものだった。
そしてその格好も、まるで武具のような不思議な物を身に着けている。
ふ、とつま先が何かに引っかかり視線を向けると、小さな刃物が床に突き刺さっている。
腰を屈めそれを抜くと、丁寧に磨かれたナイフ─いや、なんと呼ぶのだったか、矢じりを大きくしたような、時代劇などで見かける忍者の小武器のような刃物だった。

「これはこれは・・・」

壁についた間接照明にかざし、まじまじと見つめると研ぎ磨かれた刃に楽しげな自分の顔が写りこむ。
この三人は何なのか、一体何の目的で我が屋敷に潜り込んだのか。
口元にもガムテープを張られ、むぅむぅと唸る男達を一瞥し、次いで風魔に目配せをする。
それに小さく頷いた風魔は無言でサッと手を伸ばし、エントランスにはビビビッと容赦なしにガムテープを剥がす音が響いた。

「・・・ッデ?!・・・っくぅ・・・テ・・・ッメェ松永ぁっ!西海の鬼にこんな事しやがって、タダで済むたぁ思うなよ!」
「むぐ、ぶ、ぐあああっ?!・・・お、おのれ貴様!!!某達をどうするつもりか!!!」
「・・・ッ?!イってぇ!何なのコレ?!取れないし!・・・っていうか、アンタ、まだ生きてたんだね」

東大寺で爆死したかと思ってたよ、とギラつく瞳を歪ませ囁く男は、思わず後退ってしまいそうなオーラを体から噴出させていた。
その気配を察した風魔が転がった男の肩を踏み、首根を掴むと残った二人はまたギャンギャンと聞くに堪えない罵詈雑言を喚き立てる。

「ちょ、ちょっと真田の旦那、鬼の旦那もお、落ち着いて、風魔の旦那を刺激しないでくれよっ!いっだ?!っ、風魔の旦那も、もうちょっとお手柔らかに・・・いだだだだだ!」

風魔が男を拘束すればする程、他の二人の喚く声は大きくなっていく。
松永は離れの方向をチラリと見やり、ふぅ、と小さくため息をつくとパン!と一つ手を打ち鳴らした。
途端にエントランスはシン、と静まり返る。

「・・・この家には寝ている者もいる。静かにしてもらいたい。・・・ふむ、それで熱り立っている所すまないが、卿達は何処の何某かね?随分と私に恨みがありそうだが、私は卿達をまったく知らないものでね」

薄暗いエントランスだと言っても、一人一人の顔を確認する事はできる。
じっくり見つめなおしても、松永はこの三人と出会った記憶など一切持ち合わせていなかった。
松永の台詞を聞いた三人はまたそれぞれに口を開こうとして、隣に立つ風魔がビッとガムテープを伸ばした音を聞き慌てて口を閉ざす。
- 1 -
[*前] | [次#]
ページ:

トップに戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -