Pets!10


うげぇ・・・と松永の表情に顔を強張らせていた佐助の横で、元親は瞳をギラギラと光らせみつきをひた睨んでいた。

「・・・テメェ『躾け』たぁ何の話だ!それとさっきから俺達を『ぺっと』って呼んでやがるが、そりゃどういう意味だ!」

ガチャガチャと錠を鳴らし声を荒げる元親に、ガムテープを取り出した小太郎を遮りみつきはゆっくりと近付いて行く。

「自己紹介がまだでしたね。私はみつきと申します。先程の松永の甥です。そして貴方達の主になりました」

次に『てめぇ』と呼んだらオシオキしますね。と元親の前、その長い足を振り回しても届かない絶妙な位置に止まると、みつきは柔らかな顔には似付かぬ不穏な言葉を吐く。

「主?アンタが?なんで?それに俺様こっちの真田の旦那に仕えてるんだけど」
「貴方達、異世界の戦国時代の人で、行くあてがない所を叔父に拾われて、叔父の物になったのでしょう?叔父の物になった貴方たちを、叔父は私にプレゼント─贈与してくれたのです。かわいがってやりなさいと。それと、佐助はそのまま幸村に仕えていて構いません。佐助の主の幸村の主が私なので、つまりは結局佐助の主も私です」
「あー、そりゃまた素敵な理屈だね・・・」

さすがと言うか、なんと言うか、あの松永の甥だ。
かわいらしい顔身体とは違い、どうやらこの子の中身はとんでもないらしい、と佐助はその利己的な主張に頬を引きつらせる。

「貴方達は今から私のペットです。『ペット』とは一般的には愛玩動物の事ですね。戦国時代には犬や猫を飼う習慣はありませんでしたか?」

幸村のようにみつきの容姿に騙されきってしまう事も、元親のように腹の奥で煮える怒りに身を任せてしまう事も出来ず、一人冷静でいた佐助もその侮辱には瞳を険しくし、思わず手首の錠を鳴らす。

「─っ!ざけんなテメェ!俺達が犬猫と同じって事か?!アァ?!今すぐコレを解きやがれ!テメェのそのニヤけた女面、ぶん殴ってやらぁ!」

同じように怒髪天を衝いた元親は、必死に足をばたつかせてみつきに向かって蹴りを放とうとするが、僅かの所で届かない。
近くで振り回される長い足を愛しげに見つめ、三人三様の感情を乗せた顔を見つめ、みつきはこの場にまったくそぐわない吐息のような甘い笑い声を漏らした。

「ふふ、もちろん貴方達は人間です。さすがの私も犬猫とセックス─、性行為をする趣味はありませんもの。貴方達は人間として私のペット─、私に愛されて、私の寂しさを埋めてくれる、愛玩対象になったのです」

「いっぱい、いっぱい、いぃぃっぱい、かわいがってあげますね!」と微笑み、嬉しげに、楽しげに、小首を傾げたその姿はとても愛らしかった。
怒りに満ちていた元親でさえもぐっと息を呑み、今あれだけ理不尽な事を言われていたにも関わらず、一瞬胸の奥がキュンッと音を立てる程、可愛らしかった。
その可愛らしい笑顔を湛えたままみつきは「あ、今、二回『てめぇ』って言いました」と元親に向き直ると「躾けは最初が肝心って言いますものね。元親、メッ!ですよ?」とぷくりと頬を膨らませる。
大の大人相手に小ばかにするような態度だが、しかしそれがまた可愛らしく映り、元親はとうとう怒りだけではなく頬を紅潮させると慌てて照れ隠しに「チッ、何が『メッ!』だ!俺は『ぺっと』になんかならねぇからなッ!」とそっぽを向く。

「もう、元親は本当に口が悪い。・・・オシオキしなくちゃ、ダメですね」

その時、みつきに視線を合わせてはもじもじと俯き、またチラチラとみつきを見つめる動作を繰り返していた幸村はちょうど顔を俯けている所だった。
元親は、自分のキュン、と音を立てた胸の奥が高鳴り始めているのに戸惑い、床のフローリングの板目を見つめて熱くなってしまった頬をどう冷まそうかと思案していた。
なので、やはりこの時も佐助だけがみつきの儚げな微笑に、淫蕩で嗜虐的な光が灯ったのを見たのだった。
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