珈琲を入れるが、ツクモは砂糖とミルク、両方入れるかい?


にやにやしながら聞いてくる平門にむっとし思わずこう言ってしまった。


どっちもいらないわ。


言った後、激しく後悔した。こちらを見る平門は一瞬見開くが、直ぐに目を面白いと細める。嗚呼、私のバカ。


「どうぞ、召し上がれ。ツクモちゃん。」

「ありがとう……。」


カチャと音を立てながらティーカップがテーブルに置かれる。見慣れない黒に近い茶色を見て改めて後悔を胸に抱く。

向かい側に座る平門はカップを傾け、珈琲を味わっている。一先ずカップを置くと、


「珈琲、冷めてしまうよ。早く飲んだ方がいい。」


「………。」


心無しかまったくそのつもりなのかこの状況を楽しんでいるように思える。(おそらく後者だろう。)普通の表情、普通の喋り方をしているが、長年一緒にいる私はわかる。


(あぁ、もう……)


仕方がないと思い、口に含む。一口飲んだだけなのに、舌が苦い苦いと悲鳴をあげる。


「苦い………」


「ふふっ、無理をするからだよ。」


大丈夫か?とこちらの様子を伺う。大丈夫…です。と声を上げるので精一杯だった。


「今から、入れてくるよ。甘い珈琲を。」


椅子から立ち上がり、そう言う。間もなくテーブルに見た珈琲の色はいつも見慣れたものだった。口に流し込むと私が安心する味。


「美味しい……。」


「そんなに美味しいか?」


「えぇ、私は安心する。……」


ほんのりとした甘さがちょうど良いの。まだ少し入ったカップを見つめながらそう呟く。


「じゃあ少しくれないか?」


「いいわよ……って何で顔が近いの…」


お互いの息が感じられるのではないかというぐらい近くに平門の顔が。…いつ立ち上がったのかな。


「何って『味見』だろ?それ以外に何があるんだ。」


「馬鹿なこと言わないでっ……っん!…ちょっ…と……っは…」


制御の声も全て唇に閉じ込められる。キスされたかと思ったら、直ぐに舌が割り入ってくる。抵抗できないままただ受け入れることしか出来なかった。やっとの事で唇が離れるとへろへろと腰が抜ける。床の上で慣れないキスに呼吸を整えようと、肩を上下させていると。


「甘いな」


「…ッバカ!」


平門を濡れた唇を拭きながら、そう言った。



甘いのを少しちょうだい


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