ふと目を覚ますと、目を閉じて眠る彼の整った顔が近い距離にある。
一緒のベッドで寝たのだから当然だ。しかし、こうやって改めて彼の顔をじっくり見るという機会は無かったので目を覚まさないうちにじっくり見ておこうと、音を立てずに距離を縮める。


きめ細かい白い肌、長い睫毛……
女である私よりずっと綺麗な顔立ちをしている。
更に下へ目を向けると薄い唇が。寝てるからか少し口が開いている。
歌っている時に聞く綺麗でよく通って、少し色っぽい歌声。いつも聞く私が一番大好きな声。

そして

いつも私を幸せにしてくれるキスをくれる唇―――。


そう思うと突然頭の中でキスをしている場面が思い浮かぶ。

(…って何考えてるの!!)

首を横にぶんぶん振る。


(………もう一回寝ようかな。)


起きていても特にやることはないし、何より今の出来事を忘れたい。

そう思い、トキヤくんの顔から背を向けようとすると


「……私の顔を見て何を考えてるのです?」


「と、トキヤくん…!?」


今まで閉じていた瞳と目があう。…って問題はそこじゃない。


「あの、いつから起きてましたか?」


「あぁ、貴女が目を覚まして私の顔を見ようと体を動かした時、…ですかね。」


(と言うことは、ほとんど最初から……)


正直今すぐにでも穴に入りたい気分だ。
しかし、それにも関わらずトキヤくんは私に聞く。


「ところで春歌。伺いたいのですが…」


「は、はい。何でしょうか?」


「先程も聞きましたが、何を考えていたんですか?私の顔をじっくり見て。」


触れて欲しくない内容だった。まさかトキヤくんの唇を見てキスしている時を思い出しましたと素直になんて言える筈ない。


「特に……何も考えてません」


と言い、ふいっと視線を反らす。


「ほぉ、ではその林檎みたいに赤い頬についてはどう説明するのです?」


「っ……、それは……眠いからです!」


もはや言い訳でもない事を言い、トキヤくんがいる方向を背にする。


私から後ろにいるトキヤくんは何を考えているんだろう。表情が気になるが振り返る勇気はなかった。すると、


「春歌、こちらを向いて下さい。」


別に何も言いませんから。


耳元で囁かれ、私は恐る恐る体を反対の方向へ向けると、


ちゅっ


目の前には目を閉じるトキヤくん。唇の柔らかい感触。いきなりでびっくりしたものの、それを大人しく受け入れた。


「……私は大好きですよ。」


貴女とキスをすると幸せになります。


私の考えていることが分かっていたのか自分がそう思っていたのか……

どっちなんだろうと考えていると再び唇を奪われた。


以心

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