私が皇さんを好き…。

それだけが頭に、心に響く。数日前にナギくんと話したことを思い出す。
『春歌、それはね、』

   "恋"だよ


恋、その言葉を聞いて胸がドキッとした。まるでそれが聞きたかったかのように。


『恋………私が皇さんを?』


『うん、まだ自覚ないかもしれないけど。』


『でも何でそんなこと分かるの?』


『うーん、敢えて言うなら、恋しているって顔してるから?』


『恋している顔……。』

(私、そんなに顔が変わったのかなぁ。)


『で、でも恋だなんてどうすればいいのか…』


『簡単じゃん!そんなの。好きって告白すれば。』


『こ、ここここくはく!?無理です!そんなの!』


『僕だって直ぐにやれとは言ってないよ!まぁチャンスがあったらしてみればっていう話。』


『そ、そうですね!』


(無いことを祈りたい…。)


『あっ、もうこんな時間か。僕はそろそろ行くね。まぁあんま意識しない方がいいよ。』


『はい!ありがとう、ナギくん。』



(とは言ったものの…。)

やはり意識しないという注文は私には難しすぎた。


(うぅ、どんな顔して行けばいいんだろう……。)

そう、今からHE★VENSに会いに行くのだ。元々期間内でHE★VENSの新曲を作る約束だったが、彼らの歌声を聞いて彼ら一人一人の歌を作ったのだ。それを見せる約束を今日にしてしまったのだ。

(鳳さんに楽しみにしてるって言われたし……。)

取り敢えず行くしかない。事務所関係の人から聞いたのによると、雑誌の撮影、その後にインタビューをしてるから、って地図とスタジオのまでの簡単なメモをくれた。感謝の言葉を言い、何とかスタジオまでたどり着いた。スタッフの方に話をつけて控え室の場所に向かう。

(あぁ、やっぱり緊張する……。)

『HE★VENS 様 控え室』と書いてある扉の前で立ち尽くす。前まではこんなこと無かったのに……。

(とにかく、今は気持ちを切り替えなきゃ!)

よし!と思い、コンコンとノックする。

「………はい。」

えっ!?この声は皇さん!?
あれ?三人で居るときには大抵鳳さんが言うのに…。

そう思いながら、ドアノブを回し部屋に入る。

「あの、七海なんですけど、前に言っていた曲を………ってふぇ!?」


「………どうしたんだ。」


楽譜を出しながら、ドアを開けたので気づかなかったが、部屋の中に鳳さんやナギくんの姿がなかった。代わりに皇さんの姿が。椅子に座り、本を持ってこちらを見ている。……どうやら読書をしてたらしい。


「す、すみません!いきなり!」


「いや、気にするな…。」


ふいっと視線を逸らす。あぁ、引いちゃったかな……。


…ってそういえばあの二人、何処にいるんだろ?

「あの、皇さん。ナギくんは……」


「……インタビュー、受けてる。」


「ええと、鳳さんは…」

「…社長に呼ばれた。」

「……二人とも、どのぐらいで戻ってきますか?」


「…後、数十分はかかる。」


もう、いっそのことこの場を逃げたしたくなった。


「そっそうですか…じゃあ…時間を改めて…」


「待て。」


心臓に悪い状況から逃れようと試みるが、そう簡単に上手くいかなかった。


「ここで待てばいい。」


「えっ、でも……」

「俺は……構わない。」

(嗚呼、もう…)

「………分かりました。じゃあ、」


お邪魔します。といい、なるべく対極な位置に座る。


(うぅ………。)


沈黙が続くなか、心臓の心拍数が密かに加速する。この静かさだったら相手に聞こえちゃうじゃないかと思うぐらいに。

「……これ。」

「あっ…」

いつの間にか傍にいた皇さんは机に置いた楽譜を指差す。そうだ……。楽譜。

「先刻来るときに言いかけた皆さん一人一人書いた楽譜です。これ、皇さんの分です。」

渡すと直ぐ様読み始める。そして楽譜を真剣に読む皇さんを見てドキドキしている私。…何してるんだろう、私。

一通り見終わったのか皇さんは顔を上げた、ずっと皇さんを見ていたので、当然のことながら目が合う。

「ど、どうですか?」

誤魔化すように話を振る。

「軽く一通りみただけだが………相変わらずいい、とても。」

「本当ですか!?良かった…」

(良かった……頑張ったかいがあったな。)

私は心の中でガッツポーズをした。

「やっと笑ってくれた……」

そう言う皇さんは目を少し細め、口の端を上げ…今まで見たことのない優しい表情をしていた。


「っ!」


思わず目を反らす。微笑む皇さんにドキッとしたから。


「春歌さん……。」


「は、はい……!」

当然呼ばれそちらを向く。一瞬何が起きたのか理解できなかった。体を包む感じる私の知らない温もり、……抱き締められていると分かると身体中の熱が上がった。



「すっ、皇さん!?」


「嫌だったら…言ってくれ…」


「そんなこと……。」


(言える訳がない……。)
何も言わずにいると、



「…春歌さん…俺、何か…した?」


「えっ……」


「今日、様子が変だったから……。」



『……まぁあんま意識しない方がいいよ。』

『はい!ありがとう。ナギくん。』


あの時、そう決めたのに結果、彼を困らせてしまった。


「……違います。嫌になんかなりません。」


「…じゃあ、何故?」


「それは……………。」

皇さんが好きでドキドキしてたせいです。

なんて恥ずかしくて言える訳がない。
その先を言えず俯く。
「……春歌さん」


背中に回る手に力が籠る。「黙って……聞いてくれるか?…………」

「はっはい……。」



「俺は…初めて曲を貰った時から……春歌さんの作った曲が好きだった……。」

「でも…春歌さんと…一緒にいるにつれて…それとは違う何かが…生まれてきた…」

「………。」

話す彼の声は何処か切なげで私は黙って耳を傾けていた。


「それが恋だと分かった時には……もう遅かった。」

「今ならちゃんと言える。好きです……春歌さん。」

「っ!」


(好き………皇さんが私を…?)
ドクンドクンと心臓が煩い。嬉しい。その気持ちで一杯になった。私はやっと確信ができた気がした。今までぼやけてたこの思いが。


(私も…皇さんが好きなんだ…。)


早くこの思いを伝えたい、そう思えた。

「返事は後でいいから…春歌さん?」


「皇さん……。」


顔を上げるといつもより近い彼の顔。

(緊張するけど伝えなきゃ……。)

決意を胸に口を開く。


「……最近皇さんと居ると胸がドキドキするんです。…先刻まで何なのか分からなかったんですけど……ようやく気づけました。」

少し空気を肺に取り入れる。「私も……皇さんがすきです。…っきゃ」


「………。」


いきなり抱き締められる強さが強くなる。小さく悲鳴をあげる。


「す、皇さっ……苦しいです…っ」


「すまない……嬉しくて」


嬉しいそうな彼の声音に私まで幸せな気分になる。大きな背中に腕を回し、改めて告げる。


「好きです、皇さん。」

「俺も………」


ゆっくりと二人の顔が近づいた。おまけ



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