「旡ちゃん!ほらあっちに綿飴があるよ!」 「わたあめ!わたあめ!」 「ちっ………何で俺まで…。」 そう言いながらも屋台に夢中な與儀と旡くんに文句を言いながらついてくる花礫くんを見て思わず笑みを溢す。 偶々訪れた街で夏祭りが開催していたので、私達は旡くんたちを連れてやってきた。夏祭りということでイヴァが浴衣を出してくれた。普段着なれないものだが、まぁこれはこれで良いものだ。 「やれやれ、三人とも行っちゃったね。」 「そうね。」 行くのなら多い方が良いと言うことで他のメンバーを誘ったら、丁度喰くんも暇だったみたいなので一緒に来ている。勿論彼も黒の浴衣を着用している。 「それより、ツクモちゃん浴衣姿可愛いね。似合うよ。」 「あ、ありがと。」 そういう私は桃色の生地に白い花が咲き乱れる浴衣を着ている。個人的にお気に入りだったので褒められるのは素直に嬉しかった。 「そういえば平門さんは?」 「仕事が忙しくて来られないって……。」 『悪い、ツクモ。その日は仕事が入っているから無理だ。』 夏祭りに誘った時に言われた台詞だ。確かに彼は忙しい。それは分かっているんだけど……でも。 (本当は一緒に回りたかったな…浴衣姿を見せたかった……。) 思わず、しょんぼりと落ち込む。 「…そうなんだ‥、うーん僕らも屋台回る?…って大丈夫?ツクモちゃん。」 「……!」 (いけない…喰くんが居るのに…) 「そうね。」 微笑みながら答える。それをみて安心したのか 「行こうか。」 口端を上げながらそう言う。私達は屋台へ足を進める。 「あっもうこんな時間か……」 一通り屋台を見終わり喰くんは腕時計を見てそう言う。喰くんに見してもらうと来た時間の一時間後ぐらいの時間になっていた。 「もうこんな時間なのね。」 「うん、一通り見たけど何か食べたいものとかあった?僕買ってくるけど。花火始まる前に買っておきたいよね。」 「じゃあ…莓味のかき氷お願いできる?」 「分かった!じゃあそこで待っててね。」 そう言うと、喰くんは人混みに入っていった。私は人混みのない場所で待つことにした。 (喰くん…遅いな…) 並んでるのかな? 近くにある時計を見ると、喰くんが買いに言ってから二十分ぐらい経っていた。 (悪いことさせちゃったかな……。) しかし自分には待つことしかできない。 仕方ないので再度待とうとすると後ろから肩をぽんぽんと叩かれる。喰くんが帰ってきたのかと思い、勢いよく振り返るとそこには喰くんではなく、知らない人達だった。 「ね、一人でお祭り?だったらオレ達と回ろうよ。」 「そうそう、一人じゃ楽しめないじゃんー?」 二、三人だろうか。私に向けて話してくる。人を見かけで判断してはいけないと言うが、この人達は良い人達ではないと思えた。 「………人を待っているので。」 「まぁまぁそう言わずに。」 「てかオレ達、見てたんだけどずぅーっと此処に居るよね?」 「置いてかれたんじゃね?」 「だから、さ。オレ達でどっか行っちゃおうよ!」 「…………。」 いつの間にか取り囲まれその一人に肩を抱かれる。にやにや笑っている姿は正直気持ち悪かった。いっそのこと一人を蹴ってしまおうかと身構えた時。 「君たち、俺の部下に何か用かな?」 「!?」 「えっ……平門…何で」 そこには仕事で来れなかったはずであった平門の姿。後ろから男たちの手を引き離すように首に腕が回されている。そんな彼は赤の他人に接するためニコッと効果音が出そうなほど笑顔だが、生憎目が笑っていないため恐怖でしかなかった。相手の男たちはビクッと怯えたが、すぐに言い返す。 「お前が待たせた野郎か。ふーん、まぁオレには敵わないけどな。」 「そうだよ、こんな奴放って置いてどっか行こぐはっ!…」 「騒ぐと周りに迷惑だ。それに待たせたのは俺じゃない。」 唐突に平門は男の一人に蹴りをいれる。いきなりの事で私も止められなかった。腹に命中し、地面に踞る。 「平門!相手は一般市民よ。」 普段あまり出さない大きな声で言う。 「心配しなくても手加減はした。……行くぞ。」 グイッと腕を引っ張られ、強制的に足を動かされる。 「ひ、平門……。」 「…何で一人でいた。」 声のトーンで不機嫌なのが分かる。 「最初は喰くんと居たの。でもかき氷買ってきてくれるって行ってたから待っていたの…。」 「それで待っていたら絡まれたのか。」 「はい…」 ごめんなさい。と言うと何も言わず頭を撫でてくれた。 「取り敢えず探すか。」 これははぐれないように一応な。ぎゅっと私の手を大きな手が包む。 「……はい」 照れくさくなり返事が小さくなってしまうが構わず平門は人混みを歩く。 「…何でお祭りに来たの?」 ぎゅうぎゅうの人混みの中普通の声じゃ聞こえずらいと思い少し大きめな声で喋る。 「早めに仕事が終わってな。様子を見に来たんだよ。」 「……そう。」 素っ気ない返事をしてしまう。これだから可愛くない。 「俺が来て不満か?」 「ううん、」 寧ろ、嬉しい。 それが言えたら、どんなに楽か。恥ずかしいから言わないけど。 「見ろ、ツクモ」 「え?」 私が顔を上げると、突然夜空が明るくなる。夜空にはカラフルな花火が上がっていた。周りの歩いていた人達も足を止め、歓喜の声を上げている。 (花火………そういえば、喰くんもそんなこと言ってたような。) 「喰を探している途中だが、終わってからの方が良さそうだ。」 それも周りの人々は空を彩るキャンパスに夢中になっている。そんな彼らを邪魔する気になれなかった。 (でも……平門とお祭りを回れて良かった。…) 上を見る彼をそっと見ると目が合ってしまった。 「ご、ごめんなさい。」 慌ててそっぽを向く。クスッと笑い声が聞こえる。 「ところでツクモちゃん。」 「!!……な、何?」 思わずドキッとした。すぐに側に平門の声が聞こえたからだ。下を向いているので状況が分からないが、顔を耳元に近づけたのだろう。 「その浴衣、似合ってるよ。可愛い」 「い、いきなり何言ってるの!」 顔を上げそうになるが抑える。こんな真っ赤な顔見せたくない。 「本当の事を言ったまでだ。」 「からかわないで。」 「からかってなんかないよ。好きだ、ツクモ。」 「っいい加減に………ん!」 してよ!と言うつもりだったが一瞬にして顎をくいっと上げられたと思いきや、 いきなり呼吸が奪われた。キスされたと気付いた時には舌が割り込み私の咥内を犯していた。 「あっ…うっ…は…」 「……っふ…ん」 徐々に意識がぼやけていく中花火のうち上がる音が響く。 倒れそうになるその時唇が離れる。くたっとふらつきそうになるが、平門がしっかりと腰を支えてくれた。 「…はぁ……はぁ……」 (クラクラする……) 「それで、返事は?ツクモちゃん。」 (…………。) 酸欠の時に言わせるか。 そう思いながらもずっと胸の中に秘めていた思いを告げる。 「私も……好きよ」 その言葉を待っていたよ。 満足げな笑みを浮かべ、頬に触れる。 好きだよ、ツクモ そう言い、また唇が重なった。 夜空に咲く華たちと ブプレリウム |