頭がフラフラする。そりゃそうだ30度を越える暑さの中、そして一度も水を口にしていない。仕事中ということで集中しなければならないのに……

炎天下の下、額の汗を拭う。


(………意識が…)


「………!」

「……ちゃん!」


意識が薄まる時に声が聞こえる。黒髪に眼鏡……

「ひ……ら…と」




どのくらい寝ていたのだろうか。ぼんやりとした頭をゆっくり起こす。いつもの景色にベッド。どうやら誰かが私を運んでくれたらしい。


(確か、暑さで倒れてたのよね。……私の馬鹿)


今さらながら自分の失態を後悔する。

ガチャ

唐突に廊下へ続く扉が開くそこに意外な人物が入ってきた。


「やぁ、ツクモちゃん。」

「喰くん!」

今日、共に行動をしていた喰がいた。
彼の手元にはスポーツ飲料がある。

「全く……いきなり倒れたからびっくりしたよ。」


大丈夫? とペットボトルを渡される。ありがとう そう言い、受けとる。手の中にあるペットボトルを見つめる。
「本当にありがとう。喰くん。」


「ツクモちゃんをここまで運んできたこと?全然いいよ、そんなこと。」

「でも………。」


何だか申し訳ない。私の心はそれでいっぱいだった。何かお詫びしたいな……。


見つめてたペットボトルのキャップをあげようとキャップを緩める。


「じゃあ僕とキスしてくれない?」


「へ?」


唐突に言われたので我ながら変な声が出た。行動を中断させる。


「何を言ってるの?喰くん」


「助けたお詫び、何かしたいんでしょ?」



だから、ねと顔が近づく。思わず顔を反らす。


「…僕のこと嫌い?」


「別にそういうわけじゃっ……」


悲しそうな声が聞こえ、反らしていた顔を上げると唇に柔らかい感触。目の前には目を閉じる喰。キスされていると気づき、羞恥で目が閉じられる。抵抗するものの、身体は強い力で押さえ込まれる。


角度を何度も変えられ、身体から酸素がなくなりそうになる。ぼんやりとした意識の中、胸板を押し返す。察してくれたのか、やっと唇が離れる。

「……はぁ……はぁ」「ごめんね、いきなりキスして。でも、」


必死に酸素を取り入れることで精一杯で喰の表情を見る余裕がない。

音もなくベッドの上にペットボトルを置かれる。どうやら落としてしまったようだ。


「嬉しいよ。」

僕はね。


バタンとドアが閉まる。私はキャップを緩め拾ってもらったペットボトルに口をつけた。




『ツクモちゃん!』

『ツクモちゃん!!』


あの時突如倒れた彼女の肩を揺らしながら名前を何度も呼んだ。薄く口が開いて彼女、何て言ったと思う?


『ひ……ら…と』


僕まで倒れそうになった。だって目の前にいるのは紛れもない僕なのに…自分がこんな状態なのにそれでもあの人を考えるんだと。


つい先程彼女とキスした唇を指でなぞる。


「…ツクモちゃん」


必ず君を手にいれるよ。
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