「うわっもう雨が降りそうッスなー」

予報では後2時間に雨が降ると言っていたのに……。下校しようとして空を見ると灰色の雲が辺り広がっていた。雨が降るのは偶然見た天気予報のおかげで知っていたが、肝心な傘はこの日に限って忘れてしまった。

学校のを借りるのも面倒だし、走って帰ることにしよう。
そう思い黄瀬は軽く走り校門を目指していた、が。見慣れた後ろ姿を見て思わず立ち止まる。


あれは……桃っち?

何かあったのかいつもの桃井らしくない。
黄瀬は思わず桃色の後ろ髪を追いかけた。


「桃っち!」

声をかけるとビクンと反応し、ゆっくり振り返る。

「きー…ちゃん?」

つい先ほどまで泣いていたのか目は赤く潤み、頬には涙の跡がうっすら残っている。そんな状態をみて居ても立ってもいられなくなったか、すかさず黄瀬は問いかける。

「桃っち…どうしたッスか?」


「べ、別に何にもないよ。」

黄瀬が聞くと桃井は視線を反らしながら答えた。
(相変わらず桃っちは嘘をつくのが下手ッスね)

「嘘はよくないッスよ。」

「嘘なんか……!」

桃井の言葉を遮るように、頬に残る涙の跡を指でなぞる。


「泣いてたのバレバレッスよ。」

「………。」


桃井は黄瀬の顔を見ようとしない。

「桃っち……。何があったのか教えてくれないッスか?」
あっ勿論言いたくなければ言わなくていいっすから。


暫く桃井は俯き黙っていた。

(話しずらい話だったスかも……)

やっぱ、話さなくていいッスよ。
と口を開こうとしたとき小さくボソボソと聞こえた。

「……ツくんに……」

「え?」



「テツ君にフラれたの」


黄瀬は思わず目を見開いてしまった。

「黒子っちに?」


こくんっ


黄瀬の問いに桃井は大きく頷く。


「『今の僕に桃井さんの気持ちに答えられないです。』って言われてそれで…ひくっ…うっ…」

「桃っち……。」


ぽつ…ぽつ…さーー


頭、肩に雨の感触を感じ始めたと思ったら、一気に降ってきた。


「ねぇ、きーちゃん。どうしたらこの苦しい気持ち無くなる?」


そう聞く桃井は本当に苦しそうで……。
黄瀬はいつの間にか彼女を抱き締めていた。


「きー…ちゃん?」

「沢山、目一杯の涙を流せば…苦しくなくなるッスよ…」

顔は俺が隠すから


その瞬間桃井は何かが外れたかように泣き声をあげながら泣いた。黄瀬は雨の中赤ん坊をあやすように彼女の濡れた髪を撫でていた。


悲しみで苦しむ二人を雨が優しく包む



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