「さてこれからどうしましょうか。」

「そうね……。」

風紀委員室から出て数十分経過した。私はまだ仮装をしたまま、荷物を風紀委員室に置きっぱなしなので、家に帰ることなどできない。そうなると必然的に風紀委員室に戻るべきなのだが……。

(まだ余裕で居る時間なのよね。)

仕事量が多い私たち風紀委員は基本的に下校時間が遅い。
たまに見回りの先生に注意される時もある。

『僕が取りに行きます』と塚本が言ってくれたが女子の着替えを持っていくなど変態扱いされるのが目に見えるので必死に却下した。

(それに此処に居ることがバレちゃうかもしれないしね。)

そうなると残った選択肢は一つ。


「………此処で待つしかないわね。」

「そう…ですね。」

ちらりと壁にかかっている時計を見る。
精々後一時間ぐらいだろうか。

(暇だなぁ)

やることもなく机にガバッと突っ伏す。目の前の白い世界に思わずため息がでる。

「暇ですね……」

ぽつりともらすようにそんな彼は天井を見上げている。


(……そういえばこんな格好してるのに一回も言ってないな。)

突っ伏した顔を塚本に向ける。今アレを言ったら彼はどんな反応をするのだろう。困惑するだろうか?驚くだろうか?色々考えたら次第に好奇心が湧いてきた。

(よし)

「塚本くん」

「何ですか?」

「トリックオアトリート!」

(やっぱりハロウィンはコレを言わなきゃね。)

トリックオアトリート。コレを言うだけでハロウィンって気分になるのは私だけじゃないだろう。

 (さぁ、どうだ!)

「はい、どうぞ。」

「え?」

小さな包みを数個渡される。チョコ辺りだろうか。ハロウィンらしいオレンジ色の包装が電灯に照らされ光を生み出す。

「先輩、お腹空いているのならもっと早く言って下さってもいいのに。」

「いや、別にお腹空いているわけでは……」

「ふふ、いっぱい持っているのでいくらでもどうぞ」

と言いながら、さらにポケットから取り出す。
予想外の展開に目を丸くする。

「意外。塚本くん持ってないかと思った。」

「はは、これは悪戯対策ですよ。」

同級生の悪戯は本当にタチが悪くて
苦笑混じりにそう言う。

(塚本くん、からかうと面白いもんね)


うんうんと一人納得する。かしゃかしゃと音を鳴らしながらひとつ包みを空ける。中はコウモリが刻まれているチョコレートだった。

(美味しそう……)

「じゃあ、いただきます」

口に含むとカカオの香りがふわっと広がる。アクセントにマカダミアナッツが口の中で踊る。
噛みしめていく内に自然と頬が緩んでいく。

「どうですか?」

「うん!おいひい。」

「それなら良かった。他にも色々な味があるので是非試して下さい。」「えっ!いいの!?」

「はい。もう他に誰かあげることはないと思うので」

「ありがとう!」

では遠慮なくと机に広がるカラフルに包まれたチョコレートたちを見る。……どれも美味しいそうだから困る。

(うーん、どれにしようかな)

ふと目に入ったのは白と黒の包み。よく見ると白いオバケだった。

(可愛い……。)

これにしようとオバケの包みに手を伸ばす。

「…trick or treat?」

「っ!!」

耳元で滑らかな英語を囁かれる。唐突なことでビクッと肩が震える。

「塚本、くん?」

はい。と先程狙っていたオバケのチョコを渡す。すると黙って首を横に振る。

「それは僕が用意したお菓子ですよ。僕が言っているのは―――」



栞先輩、貴女のお菓子ですよ。



「わ、わたしの?」

「はい。持っていますか?」

私は自分の体を見る。当然お菓子など隠し持っているわけがなく……。

(ここは正直に言うしかないか……)


「ごめん、急なことで今は持ってないや。」

「そうですか。
じゃあ、イタズラですね。」

先刻より少し距離が縮まる。

「…っ、後で渡すじゃ駄目なの?」

妙に高鳴る心臓のせいで上手く言葉が紡げない。

(何か……体が変だ…。)

「駄目ですよ。」

「イタズラは…その場で受けてもらわないと意味がないじゃないですか。」

「つ、塚本くん……。」

「覚悟、してくださいね?」


顔に影が入るのを感じ、私は反射的に目を閉じた。


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