*スクールウォーズ 苗苑end後でハロウィン

「わぁ、先輩相変わらず似合ってますよ!」

「えっ!コレ学園祭でも来ていらっしゃったのですか!?夏絵さんいいなー、私も見たかったです!」

「まあまあ、今見れたんだからいいじゃない。そうだ先輩、折角私達も仮装している事ですし、記念撮影撮りましょうよ!」


「そうですね!早速カメラの準備を……って先輩どうしたんですか!?」
「ねぇ、もうコレ脱いでいいかな?」

「だーめーでーすー!」

「せっかくのハロウィンなんですから、恥ずかしがってないで先輩も写りましょうよ!」

あっさり却下されてがくりと肩を落とす。

(別にこの衣装じゃなくてもいいじゃない……。)

先輩写真撮りますよー。という声が聞こえ、渋々後輩たちの方に足を向ける。

多忙な風紀委員の仕事と学校行事以外には特別執着しないため、人様から言われるまで気づかなかったが、今日は10月31日。ハロウィンだ。
授業の休み時間にはクラスメイトからは一条さん、トリックオアトリート!と言われ、お菓子を貰ったり、取られたり、デコピンされたり、お腹擽られたり……。
今日一日でいろいろなことがあったがその分お菓子を一杯もらえたので気を良くしていた。

しかし、問題は放課後風紀委員室で起きた。

いつも同じぐらいの時間。がらっとドアを開けると、いつも通り後輩である芽衣と夏絵が居た、が。

「あっ!先輩丁度良いところに!」

「お疲れ様です。」

夜空のようなワンピースにとんがり帽子。蜘蛛の巣のようなレース、塗り潰した黒のミニドレス。
それが現在彼女たちの服装の簡単な説明だろうか。

「……あなた達、何でそんな格好してるの?」

「何って仮装ですよ!」

「いくらイベントに疎い先輩だってハロウィンぐらいは覚えていますよね?」

「まぁ、一応ね。」

(当日言われて気づいたけどね。)

このことはあえて言わないでおく。

「仮装してるのは分かった。でも此処で着替えなくてもいいじゃない。」

仕事終わらないわよ?と机の上にある仕事をぺしぺしと叩く。そう言うと二人はえぇーと不満の声を上げる。

「そんな冷たいこと言わくてもいいじゃないですか!」

「そうですよ!せっかく先輩の分も持ってきたのに。」

「だからって………………え?」

今何て言った?私の耳が可笑しく無ければ先輩の分も持ってきたと聞こえたが…。
そんなことをぼーっと考えているといつの間にか夏絵は何かを取り出していた。

「じゃーん!先輩覚えていますか?学園祭でも着た例のコスプレです!」

「それは……!」

学園祭のあるイベントから逃げるため夏絵の友人から変装のために借りた衣装だ。
その後結局苗苑本人にバレてこの衣装で苗苑とスタッフとして校内を歩き回ったのは忘れたくても忘れられない思い出だ。

「あっ、そう言えば職員室に用事が……。」

がしっ

背中を向けて早口で言うと、逃がすまいと両肩に手が置かれた。

「逃がしませんよ?先輩?」

「さぁ、着替えましょうねぇ」

(……ダメだったか。)

衣装を押しつけてくる後輩たちにバレないように小さくため息をついた。



「はい、ピース」

パシャッ


「じゃあ、次はこっちのカメラでお願いしまーす。」

「先輩!顔ひきつってますよ」


そんなこんなで今に至る。
小さな撮影会は仕事をこなそうと風紀委員室に訪れた後輩たちによって次第に大きくなっていた。

(何でこんな事に……。)

そういう私は
すっかり疲れてしまった口角を無理矢理上げているので、カメラに写された私はきっと口がひきつっているだろう。

もう一回いきますよー。と言う声が聞こえ、はぁとため息をつく。

(もう、誰でもいいから助けてくれないかな……。)
ふと、そう思ったその時だった。




バン!

「先輩、何をしているんですか!!?」

「塚本くん!?」

勢いよくドアが開いたかと思うと、聞きなれたテノール。
近々次期風紀委員長となる塚本の声だった。

「早くしないと遅れますよ!!」

づかづかと人混みを掻き分け、私の目の前に現れる。しかしここで私は一つ疑問が頭に浮かぶ。

(遅れる?……何に?)

先刻夏絵たちには、『職員室に用事』などと言いかけたがあれはその場しのぎで言ったものであり、当然職員室などに用事などない。
しかしそうなると塚本の発した『遅れる』は何に対してなのだろう。

(まさか……私が忘れてる?)

風紀委員ではそういうことがないようしっかり確認してるが……そうかもしれない。

(もしそうだったらかなりヤバいよね…。)

悪化していく状況に頭を抱えたくなる矢先、


ガシッ

「さぁ、先輩。皆さんには事情を話したので僕たちは行きましょう。」

と私よりも一回り大きい手が腕を掴む。

「そ、そうね」

しかし私は棒立ちになりながら色々考えているうちに後輩へ事情を説明するなんて本当に頼れる後輩を持ったものだ。

「では行きましょうか。」

「そうね」

出口に行くまで委員長、仕事頑張って下さい!いってらっしゃい。などの声が聞こえ、なんだかんだ本当に良い後輩たちを持ったと改めて思った。




パタン……


来た時とは真逆に静かにドアが閉まる。と

「先輩、大丈夫ですか?何かされていないですか?お怪我は?」

ふわり、と塚本のジャケットが肩にかかる。
温かい……ってそうじゃなくて。

「そんなことより急いで会議行かなきゃ!」

ごめん!場所覚えてる!?と慌てて言う。

(スケジュール帳持ってくれば良かった……。)



「あ、あの先輩!」

「何?何処か思い出した?」

塚本の方を見る、すると何故だが気まずそうに下を向いている。

(???)




「嘘、なんです。」

「え」

「だから、会議なんて本当にないんです。」

嘘ついて本当にすみませんでした。と綺麗に頭を下げる。取り敢えず失態を起こさなくて良かったと思わず安堵する。

「…塚本くん、取り敢えず顔を上げて。何処かへ移動しましょ。」

「……分かりました。」



私たちは丁度空いていた自習室の中に入った。
私が椅子に腰をかけると塚本くんもその隣に座る。

(前にここでこうやってお弁当食べたなぁ……。)

あの時の塚本の手料理の味を思い出しながら、塚本と向き合う。

「さて、」

「どうして塚本くんはあんな嘘をついたの?」

生真面目で賢い彼のことだ。何か訳があるのだろう。そう思い、じっと彼の顔を見る。少し間があったが漸く彼は口を開いた。

「先輩を……。」

「え?」

「貴女を…助けるためです。」

え。

「わ、わたしを!?」

「っ先輩、静かに。誰か入って来ますよ。」

(確かに)

「…ごめん。」

塚本から指摘をうけ声のボリュームを落とす。そんな…別にいいですよ。と言うと続けて事情を話してくれた。

「HR後、僕はちょっとした用事があったので図書館にいたんです。
そしたらそこに都丸が現れたんです。」

「都丸が!?」

塚本は黙ってうなずく。正直嫌な予感しかしない。

「それで、都丸に『一条さんが大変なことになっている。早くしないと一条さんが襲われちゃうよ。』と真顔で言われたので……それで……」

「全速で風紀委員室に来たと。」

「……はい。」

勘違いであんな騒ぎを起こして本当にすみませんでした。とぺこぺこ頭を下げ謝る。

「いやいや、謝るのはこっちだよ。
私の勘違いで傷つけてごめんなさい。
そして、
助けてくれて有り難う。」

「っ、はい。」

そう言うと塚本は柔らかく微笑む。時たまにしか見れない彼のこの表情が私はとても好きだ。私も思わず笑顔になり、二人で顔を見合せた。




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