欲しいものは本当にそれなのか? | ナノ

 いきなり現れて「やあシズちゃん、元気そうですこぶる残念だよ」と、いちいちこちらを苛立たせるあいさつをしたと思ったら、突然キスされて喉の奥にカプセルのような何かを流し込まれた。

「……っは、てめぇ……なに、飲ませやがった……!」
「うーん、まぁちょっとしたお薬だよ。おいしくなかったんならこれでも食べとけば?」
「は? ……むぐっ!」

 臨也のポケットから出て来たチョコレートを口の中に入れられる。……うまい。うん、まあ、チョコレートに罪はないしな。もぐもぐ。

「カプセルは効きが遅いからやだったんだけどね……」

 チョコレートに夢中な静雄は臨也の不穏な発言に気付かない。臨也はにやにやと笑いながら静雄を観察していた。



 不意に、クラリ、視界が回った。立っていられずに床に倒れ込む。背中を強打。瞬間息が止まる。

「ぐぅっ……く、ぁ……っ……」

打ちつけた背中が痛い。くらくらと目が回る。だんだんと熱くなる身体。なんだこれ。あつい、くるしい。

「い、ざやぁ……てめ、……なに、盛りやがった……!」

浅くなる呼吸の合間にとぎれとぎれ問いかける。身体は小刻みにカタカタと震え、自由がきかないながらも眼光だけは鋭く臨也を睨みつけた。 ……まあ、そんなものが臨也にきくはずもないが。
床に丸まって震える静雄を見下ろし、にやにやと意地悪く笑う。ほんと、シズちゃんってば馬鹿だよねぇ。相手はこの折原臨也だよ? ちょっと、油断しすぎじゃない?

「だから、ちょっとしたお薬だよ。言ったでしょ? 波江に頼んで作ってもらったんだ。新羅ほど万能じゃないだろうけど、彼女も製薬に関してはスペシャリストだからね。まあ値段は弾んだけど、シズちゃんがそんなになるくらいだから充分満足だよ。そうだねぇ、言うなれば、催淫剤を大量に含んだ超強力な筋弛緩剤、ってところかな? 本当は静脈注射かシロップとか効きが早いのが良かったんだけど、注射針がシズちゃんに刺さるとも思えなかったし、口移しで飲ませたいんだけどって言ったら経口で効きが早いのは貴方が動けなくなるわよって言われちゃって諦めたんだよねえ。俺が動けなくちゃ意味ないからさあ、仕方なくカプセルにしたんだよね。まあでも即効性って言ってただけあって、結構早かったみたいだね? あぁ、あとそれ、結構持続性があるらしいから、覚悟しといたほうがいいかもね。俺にも何時間続くようなものなのかわからないし」

長口上をすらすらと途切れることなく吐き出す。その間にも静雄は、じわじわと熱を持ち始めた、己の自由にならない身体を持て余し震えていた。ハァハァと呼吸は浅く速く頬は紅潮し、虚ろに焦点の合わない、しかし確かに情欲の色を湛えた目で睨みつける姿に、臨也はゾクゾクと背筋を駆け上がるモノを感じた。

「はっ、ぁ……いざ、やぁ……っ」
「うん、なあに?」
「なっ! ……っひ、あぁっ」

何もわかっていないかのような完璧な笑みで、静雄の傍らにしゃがみ込みわざとらしく問いかけ、ツウッと身体に触れると、ビクリと一際高く鳴いた。

「っふ……ぅ、いざ、や、いざやぁ……っ……」
「うん」
「も、っねが……」
「どうしてほしいか、言ってごらん?」
「……ぁ、も、さわってっ……!」
「ホントに、触るだけ?」
「……っ!」

 身体の辛さで生理的な涙の浮かぶ瞳はもう虚ろで、その中の僅かな理性さえ、あと一息で消え失せる。
 情欲で紅く染まる目許にひとつ、キスをして、これから何も聞こえなくなるであろう耳に唇を寄せた。


「ねぇ、シズちゃん、」



「―――――。」




 紡がれた言葉に静雄は目を見開き、熱い滴を一筋流した。
 零れ落ちた涙の源流は完全に焦点を失い、口許には僅かな笑みさえ浮かぶ。どこか悲しい悦楽に支配されたその表情は、臨也を歓喜させた。
 堕ちた。やっと、この手の中に。

「ふふ……はは、あはははははは!」

 響く哄笑とは裏腹に、その瞳は悲しげな色を湛えていることに、臨也は気付かない。そしてその瞳のまま、ニヤリと笑んだ。

「さぁ、お楽しみは、これからだ」




fin.


















オチが行方不明。
これが臨也はぴばとかひど過ぎると言いつつ上げる。

20110504.

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -