ある昼下がり | ナノ




「………おいテメェ、なに、引っ付いてやがる……」
デリックは、低く地を這うような声で言った。こめかみには血管が浮かんでいる。
「……………」
元から無口な津軽は、言葉を返さない。
「おう、どうした?デリ。そんな怖い顔して」
代わりに、静雄がデリックに問い掛けた。
「…どうした?…じゃねえ!!!!なんっで津軽テメェそんな静雄に引っ付いてんだ!!!」
デリックは静雄に返事しながらも津軽に怒るという器用さで言葉を返した。
目線の先には、ソファに座らず背もたれにしてその前の床に座る静雄。そして、ソファに座り、その静雄を後ろから抱きしめるようにもたれ掛かる津軽。
デリックは静雄にべったりと引っ付いている津軽に怒っていた。
津軽がうっとおしげに呟く。
「………デリック、うるさい」
びきぃっ!!
「………てっめえ……!!!」
ビキビキと音がするように青筋が浮かぶデリック。
どすどすと津軽と静雄に近づき、2人の首根っこをつかむと、ベリッ!!と音がするように引き剥がした。離れる静雄と津軽。
デリックは、津軽の胸ぐらを掴みガクガクと揺さぶりながら「オイコラてめぇさっきからケンカ売ってんのか?ぁ"あ?」とチンピラよろしく、引き攣った笑顔で脅しにかかる。津軽は興味なさそうに明後日の方角を見遣っている。引きはがした静雄を置き去りに喧嘩する津軽とデリック。
静雄は「デリックは短気だなぁ」などと、のほほんと2人を見ている。普段の静雄を見れば決して人のことは言えないのだが、今の静雄にそんなことは関係ない。静雄にとって2人は愛すべき家族なのだ。デリックと津軽はそうは思っていないだろうが、静雄には2人でじゃれあっているようにしか見えていない。
そんな呑気な静雄の心理などにお構いなく2人の喧嘩はエスカレートしていく。デリックに揺さぶられるだけだった津軽が、少々苛立ったのか口を出している。

「なんでてめぇばっかり静雄にべたべたべたべた引っ付いてンだよコノヤロウ。っつーかさっきからてめぇその態度、馬鹿にしてんのか?」
「……別に俺が誰と一緒にいようと勝手だろう。俺が静雄と居るのがそんなに気に食わないのか?狭量なやつだな」
「きっ…!、っのヤロ…」
「手は出すなよ。静雄が暴力が嫌いなのは知ってるだろ?」
「…っ…!…ぅ、わ、わかってるっつーのンなこと!」
「そうか?」
「ッ!このッ…」
「しずおー!!!」
「「「!!?」」」

直情的に口を開くデリックを、諌めるように打ち負かすように言葉を放つ津軽。そこに、活発で元気な声が乱入する。発信源は小さな何か。バタバタと足音をさせながら近づいてくる。
「しっずおっ!」
「うおっ」
現れたのは静雄をそのまま小さくしたような子供。走った勢いのまま、ぴょんっと元気よく静雄に飛びついた。突然のことに静雄は慌てて子供を受け止める。
「ちったお、危ねぇだろぉ!?」
「へへーしーずおー!」
静雄の首にぎゅうぎゅうと抱き着いて甘えるちったおと呼ばれた子供。ちったおもまた家族の一員であるため、咎めるような声と裏腹に静雄の顔は優しい。笑いながらちったおをあやすように抱き返すと、ちったおもうれしそうに抱き着いた。年の離れた兄弟か親子のような光景に、和やかな空気が漂う。
しかし、そこに穏やかでない視線が2対。ちったおが来てから空気と化していた津軽とデリックである。
普段決して相性が良いとは言えない2人だが、このときばかりは同時に同じ事を思った。すなわち、「ちったおばっかずるい。」と。
デリックは津軽から手を離し、津軽は着物を整えて、2人はスッと立ち上がる。そしてスタスタと静雄とちったおに歩み寄り、津軽は静雄の左側に、デリックは右側に腰を下ろした。
「「…ちったおばっかずるい」」
同時にハモると、2人して静雄に抱き着く。
「ずるいって…お前らなぁ…」
胡座をかいた膝の上にはちったお、右手にデリック左手に津軽。呆れたように言いながらも、愛されているなぁと実感しじんわりと胸が熱くなる。自然と笑みを形作る口許を抑えられるはずもなくて、静雄の顔はずっとずっと優しかった。







「ただいまー」
ガチャリ。リビングの扉が開く。
「………何やってんだお前ら」
現れたのは、これまた静雄の2、30年後かというような容貌の男。ガサリと買物袋の音を立て、扉の前で立ち尽くす。目線の先には、静雄を中心にして津軽、デリック、ちったおが、おしくらまんじゅうでもするように静雄にぎゅうぎゅうと抱き着いて眠っていた。静雄は苦笑ながら至極小さな声で男に返した。
「おかえりなさい、静雄さん」
「ん?おう、ただいま。……で?なんだこりゃ」
「や、なんかみんなして抱き着いてきて、しばらくぎゃあぎゃあ言ってたんスけど気づいたら寝ちまってて…」
「へぇ、そりゃまた…」くくっと静雄さんと呼ばれた男は笑って、音を立てないようキッチンに移動する。ガサガサと買物してきたのであろうものを冷蔵庫に仕舞いこんだ。そして不意に、静雄に言った。
「静雄、そいつら起こせ」
「え?でも…」
「プリン、食おうぜ?」
時刻はちょうど午後3時。ニッコリと笑んで透明の容器を見せれば、途端にキラキラと目を光らせて、元気よく頷いた。そして3人を起こしていく。
「津軽、デリ、ちったお起きろ。プリン食おうぜプリン!」
喜色満面で起こしにかかる静雄。もぞもぞと体を動かせば起きる3人。
「んぅー?」と寝ぼけ眼を小さな手でこしこしと擦るちったお。
「ん…」と眼を半分だけ開きボーッとする津軽。
「ぅ"ー…」と眉間にシワを寄せて静雄の肩に顔を埋めるデリック。
「おいお前ら起きろープリン食っちまうぞー」
3人を起こすのに加勢するように、静雄さんもプリンとスプーンをテーブルに並べながら言った。
「プリン…?」
「プリン!!」
「…プリン…」
上から、津軽、ちったお、デリックの反応である。この家族はみんなプリンが好物です。
「おう、お前ら顔洗ってこい。そんな寝ぼけたまんまじゃプリンこぼすぞ」
「はーい!しずおさんおかえりなさいっおれかおあらってくる!」
「おう、ただいまちったお。おらお前らも行ってこい」
「静雄さん帰ってたの…おかえりなさい…」
「ただいま津軽。早く顔洗ってこい」
「うん…」
ちったおと津軽は静雄さんにおかえりを言っておとなしく顔を洗いに行く。静雄さんはそんな2人の頭をそれぞれ撫でて、ただいまを言った。
「おーいデリー、デリックー起きろー」
静雄がずっと起こしているがただ1人、デリックだけが「んー」と唸るだけで全く起きない。起きないだけでなく、静雄の首筋に顔を埋めてより抱き着いている。見ていた静雄さんはぴきりとこめかみに青筋が浮かぶのを感じた。
「デーリぃいい?起きろっつってんだろ、ぁあ"ん?」
ゴッ!!静雄さんの鉄槌が下る。
「い"ッ…ってぇなこのクソジジィ!」
「だぁれがジジイだこのクソガキが!静雄に纏わり付いてんじゃねぇさっさと顔洗ってきやがれ!」
「デリ、顔洗ってこいって。早くプリン食おうぜ」
吠えるデリに静雄さんが怒鳴る。静雄は早くプリンが食べたくて仕方ないらしく、目をキラキラさせながらデリックに催促する。するとデリックは静雄には逆らえないらしく、静雄のキラキラした目に押され「う、わ、わかったよ…」と洗面所のほうに歩いて行った。と同時に戻ってくる津軽とちったお。しばらくしてデリックも戻ってきた。
「「「「「いただきます」」」」」
それぞれテーブルについてプリンを食べる。和やかな空気。この家族はみんなプリンが大好きです。
「静雄、はいあーん」
「あーん」
静雄さんが差し出したプリンを食べる静雄。それを見た3人はもちろん反応するわけで。1番先に動いたのはちったおだった。
「おれもする!しずおしずお!はいあーん!」
「お?サンキュ、じゃあ俺も。ちったお、はいあーん」
ちったおが差し出すプリンを食べて、ちったおにもプリンを差し出す。ちったおはうれしそうにスプーンの上のそれを食べた。
「あ、ずるいなー。静雄、俺には?」
「え?あ、静雄さん、はいあーん」
「ふふ、さーんきゅ」
このとき、またしても津軽とデリックの心がひとつになった。すなわち、「ふざけんなよこの四十路。」と。

「……静雄。こっち」
「ん?津軽もやりたいのか?」
「あーん」
「お、サンキュー。じゃあはい、あーん」
「あむっ…おいしい…」
「しっ、静雄っ!お、おおお俺もっ!」
「お?いいぞ、はいあーん」
「あむっ」
「ははっ、デリ顔真っ赤だぜ?」
「ううううるさい四十路!」
「…てめぇ…」
「し、静雄、はいあーん」
「おーサンキュー、デリ」
「シカトとは上等じゃねぇかコラ…」

喧嘩しながら、笑いながら、ほのぼのしながら、おやつタイムは続いていく。



ある日の昼下がり。大好きな家族と、大好きなプリンを食べて過ごすこんな時間が、静雄はとてもとても大好きである。



fin.










予想外に長くなった…
デリ→ 静 雄 ←津軽
↑ ↑
ちったお 四十路静雄

っていう静雄総受け。
静雄静雄言ってごめんわかりにくいけど敬称ついてるほうが四十路ね。
四十路はなんか…この時代の人間ではありません。もっと未来からry みたいな←
そこはまあ…フィーリングで。
非常に残念な出来で申し訳ない…

20110130.
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