地元で行われる花火大会。小さいながらも一年で一番賑わうこの時に、少しだけ誇らしくある。汗だくで部活から帰り、急いでシャワーを浴びる。扇風機の生温い風で拭ききれなかった水と汗を飛ばす。頻りに鳴る携帯電話の通知音にうんざりとしながら、でもどこか胸が高鳴っている。すすっとスクロールをし、スタンプを送って携帯をベッドに投げる。
「おかあさーん!浴衣!浴衣どこにある?」

【剣道ガール:今日の確認事項。駅前に18時半、服装は浴衣に下駄!遅刻する場合は事前に連絡!!! 14:59】


想像以上に人が多くて、友達みんなを見つけるのは大変だった。浴衣で集合したため、普段の道着姿とは違って、みんな大人っぽくて可愛かった。花火が上がるまではまだ時間があったため、出店を回ることになった。美味しそうな匂いにつられて、みんなでたくさん買ってしまう。けれど祭りの食べ物は普段と違い、何だか全てが特別美味しく感じてしまう。適当に座る場所を見つけ、かき氷を掬っていると「あ」と声が漏れた。どんなに人が多くても沖田なら一発で見つけられる。
「ん。どうした?」
「あ、いや…沖田がいた、と思って」
「へー結局来たんだね」
「近藤くんの頼みなら断れないんじゃない?沖田も」
「沖田たちいたの?誰と?」
「近藤くん、土方くんとか…剣道部男子と、同じクラスの志村さんグループと」
「あー近藤くん、志村さんのこと好きだもんね」
いつもより少しだけ重たい睫毛を上下させて沖田を見つめる。彼の淡い髪色と端正な横顔、白いTシャツ、携帯を扱う手が見えた。

「花火上がるまであと何分?」
「あと20分くらいだね」
「あー早く20時にならないかな」

時間を持て余しているようで、クラスや部活の噂話をしているとあっという間に時間が過ぎてしまう。ドンと一発目に上がった花火に私たちは全てを中断して見入った。


「明日、部活がなければ最高なのに」
「ねー。じゃあそろそろ解散しよっか」
「そうだね」

バイバーイ、と別れ携帯をつける。何気なく見た携帯に映る文字が信じられなくて、睫毛の重さなんて気にならないほど瞬きを繰り返した。

【沖田総悟:裏の神社集合 19:35】

身体が勝手に踵を返して走り出していた。慣れない下駄なんて知らない。走りにくい浴衣なんて知らない。ただただガムシャラに走った。何度も人にぶつかって、何度も謝って、何度もつまづいて、何度も汗を拭った。


「遅せェ」
「だって……沖田から連絡が来るなんて思ってなかった…」
「なんで」
「だって…私たち、」
その続きの言葉を紡ぎたくなくて口を閉じてしまう。沖田だって今更なんなんだろう。私がどんな気持ちで同じ空間で過ごしてきたのかわからなかったのだろうか。少しでも呼び出しが来れば身なりなんて関係なく駆けつけてくるぐらい、まだ沖田が好きなんだって知っているはずなのに。
「だって俺たち?」
「……何がしたいの。わざわざ呼び出して」
「試してた」
「はぁ?」
「アンタが来るかどうか」
「わざわざ近藤くんたちから抜け出して?神楽ちゃんがいるのに?」
「そう」
「何のために?」
期待させないでよ。叫びそうになってぐっとこらえた。沖田に感情論なんて無駄だ。
「来ねェと思ってた。こっぴどくフっちまったんでねェ」
「…」
「でも来た。」
「俺に懲りずに来た」

沖田が一歩ずつ近寄る。私たちを縁取る影が近づき、重なる。
「なに泣いてんでィ」
「…沖田が、意味わからないから」
「そんな俺に懲りないアンタも意味がわからねェ」
「沖田は……私のこと好き?」
「さァ?」

わかりやせん。そう言ってキスをした。
「次は私がこっぴどくフってやる」
「いつになりやすかねィ」