クリスマスもお正月も終えた街中はチョコレートの香りが徐々に強くなっていく。それらが鼻腔をくすぐる度に私は頭を悩ませていた。バレンタインデー、どうしよう。

新開と付き合って初めてのバレンタインデー。私が悩んでいること。それは新開に手作りのチョコを渡すか否かである。高校生までなら手作りで良いと思うが、大学生になり、バイト等をしてそれなりに稼ぎがある今ならば、既製品を買う方が絶対に美味しいしおしゃれだと思う。でも気持ちが冷めてるなんて思われても嫌だし、うーん、どうしよう。バレンタインはもう明日なのに。

ピーンポーンと間抜けなチャイムが鳴る。ドアを開けると新開がいた。手には紙袋が持たれていて、ラッピング袋の頭が控えめに出ている。彼女の家に来るというのに、他の女のチョコを持ってくるなんて本当にデリカシーがないと思う。けど、家にも寄らず自分のところに直行してきてくれたと、ポジティブに考えておこう。
入って、と促す前に新開は寒い寒いと独り言を言いながらさっさと部屋に入っていく。その行動がわかっている私はちゃっかり炬燵の電気を入れているし、新開用のマグカップにホットミルクも入れているのだ。

「それ全部チョコ?」
「ああ。大学とバイト先」
「へえ。お局様のも入ってる?」
「当たり前だろ。あの人オレに惚れてるからな」
また冗談か本気かわからないことを。
「新開、一応私からも」
「おっ。今日一番これを待ってたぜ」
「どうも。良かったら一粒ちょうだい」
「ん?手作りじゃないのか」
「うん。やっぱり既製品の方が美味しいし、おしゃれでしょ。手作りの方が良かった?」
「うーん。オレ手作りに抵抗あるけど、彼女は手作りが良かったな」
「あ、そう。そうなんだ」
「照れてる」
うるさい。早く開けて。ビリビリと包装紙を破って、パクリと一粒食べた。美味しいと笑う顔が可愛くて、キスしたくなった。私にもちょうだい。甘すぎず苦すぎず、チョコレートはとろけるように美味しかった。やっぱり買ったものって美味しい。
でも来年は、味が落ちるけど新開のリクエストに応えよう。心に決めながら、新開が褒めてくれた肉じゃがに火をかける。