Be bound by a water | ナノ


▼ 3.心配症

『朝でも暑いな……』


朝からあの海岸へ来た。いつもは昼過ぎに出かけるのだが、特に暑い今日は早めに来てしまった。

昼よりも心なしか静かに感じた恭は、海に入らず、砂浜に座り込んだ。
目を閉じて、波の音に聞きいる。
酷く心地良い。

暫くするとその中に、砂を踏む音が混じり、恭のすぐ後ろで止まった。
恭はゆっくりと目を開ける。


「よう、恭」

『……バネか。おはよう』

「おはよう。やっぱりここだったんだな。ほら、これやるよ」

『りんごジュース……、ありがとう。これ、渡すために来たのか?』


嬉しそうにりんごジュースを受け取り、すぐに不安そうにした恭に黒羽は笑って答える。


「ちげぇよ。お前のばあちゃんに用があってな。届け物して来たんだよ。そうしたら、恭を知らないか?なんて言うからびっくりしたぜ。お前、また何も言わずに来たんだろ?」

『あ……、まぁ……』

「ったく、どこに行くかくらいちゃんと言ってから来いよ。心配するだろうが。まぁ、水着が無くなってたからどうせ海だろうとは言ってたけどよ」

『……悪い。あんまり考えてなかった。じゃあこのジュースは?』

「どうせ、飲み物も持って来てねぇんだろ?だから、それやるよ。スポーツ飲料の方がいいが、お前はそれが好きだろ?」

『……あぁ。ありがとう』


綺麗にすべてを言い当てられてしまい、恭は少し驚きながらも嬉しくなっていた。
黒羽がどれだけ自分を見てくれているのか実感する。


『バネは……、心配症だな』

「はぁ? なんでだよ?」

『俺のこと良く見てる。昔から、そうだったから。何かあるたびに大丈夫か?って。今日だって海にいるの分かってたのに来たんだろう?』

「まぁ……、確信はあったが……」

『……バネもサエも心配し過ぎだ。2人とも俺の事が大好きだな』


いたずらっ子のように恭が笑うと黒羽は顔を赤く染めた。
それを誤魔化すようにぐしゃぐしゃと恭の頭を撫でる。


『バネ痛いっ……、優しく撫でろよ』

「うるせー……、お前が変なこと……」

『ん、何だ?』

「なんでもねぇよ。それより、泳がないのか?こんなに暑いなら海の中は最高だろ」


黒羽は恭の隣に腰を下ろした。
恭はペットボトルを開けながら考えるような仕草をする。


『んー……、なんか、いつもより波の音が綺麗に聞こえたんだ。だから、聞き入ってた』

「そうか?ここは静かだからいつも綺麗に聞こえるがな」

『まぁ、そうだけど。……、バネは泳がないのか?いつも俺が一人で泳いでたら嫌がるだろ』

「そうしたいが、水着着てないしな。見ててやるから泳いで来いよ」


黒羽が長い足を組み、優しく微笑む。
恭は少し残念そうにしながら、ペットボトルに口につけた。

鞄へ手を伸ばし、ゴーグルを取り出す。


『なぁ、バネ……、俺はもう沈んだりしない。お前達が居るから』

「は……?」


恭はすっと立ち上がり、伸びをする。黒羽を見つめ、優しく笑う。
白い肌が太陽に照らされる。


『サエが言ってた。右腕が動かなくなって沈んでしまうんじゃないか不安だって。それは、また俺が死にかけるのが怖いって意味だ。バネもそうだろう?』

「恭……」

『俺はもう死にかけたりしない。だから、安心しろ。俺は不安そうなお前達は見たくない』


そう言うとゴーグルを頭に付け、海へ走りだす。
突然の事に黒羽は恭に手を伸ばした。


「おいっ、恭!」

『大丈夫だ!』


恭はくるりと黒羽の方を向く。
クールな恭があまり見せた事のない子供らしい笑みを浮かべる。


『俺はもう居なくなったりしない! 』

「……っ」


そういうと、恭は倒れこむように海へ潜った。
思わず黒羽は立ち上がり、その場所を見つめる。

すぐに恭は海面に上がってきた。
気持ち良さそうに泳ぎに始め、自分が動ける事を証明しようとしているようだった。

黒羽は安堵し、溜息を漏らす。


「少し、心配し過ぎかもしれねぇな。俺も、サエも……」


黒羽は暑さで滲む汗を拭った。

お前を失いそうになるなんてもう耐えられない。
でも、お前が気づいているならもっと素直になっていいんだろうか。












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