▼ 艶
『亮、髪の毛少しはねてるから、といてやる』
ブラシを片手に持ち、怜はわくわくした顔で亮の髪の毛を見つめている。
「お前、ただ髪に触りたいだけだろ」
『そんなことはない。遠慮するなよ』
ずいずいと近づいてくる怜の勢いに負け、溜息を吐いた。
くるりと怜に背を向けた。
「めちゃくちゃにするなよ?」
『まかせろ!』
嬉しそうに髪をとき始めた怜に思わず笑みがこぼれる。
何がそんなに楽しいのか分からないが髪をとかれる分には自分も心地良い。
『亮の髪、良い匂いだな。さらさらだし、何かしてるのか?』
「特にしてないな……。シャンプー、リンス、トリートメント、ドライヤーで乾かす。それだけだな」
『ふぅん。羨ましい。俺、癖っ毛だから、ワックスつけておさえてんのに』
「そうなのか?」
『そうそう。ん、ほら、もっと綺麗になった』
怜が髪をするりと掬い、気持ち良さげに指をとおす。そして、我慢していたのか、勢いよく首に腕を回し、亮の背中に抱きついた。
「わっ、なんだよ!」
『亮の長い綺麗な髪も大好きだけど、やっぱり抱きつく方が好きだ』
「そ、そうかよ」
思わず口ごもる木更津に怜は抱きしめる力を強めた。
「おいっ、苦しいって!」
『亮、可愛い……』
「はぁ? 何言ってんだよ……」
『んー……、可愛いし、かっこいい』
「だから、何言ってんだよ……」
木更津は耳元で聞こえる怜の声に顔を赤くする。相変わらず怜は楽しそうに木更津にすり寄る。
『亮、こっち向いて。俺も抱きしめてよ』
「…………」
木更津は暫く黙って居たが、突然振り向き、頭を包み込むようにして怜を抱きしめた。
突然のことに驚いた怜はぎゅっと木更津の服を掴んだ。
「調子のんな。お前の方がめちゃくちゃ可愛いっての……」
『……ありがとう、亮。ちょっと苦しい……』
「うるさい。もう少しこのままにされてろ」
『……うん』
背中に腕を回すと、長い髪が手に触れる。するりと指をとおし、絡める。
可愛い彼氏。
綺麗な髪に惹かれる。
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