▼ 体温
「バネ、寒い……」
『仕方ねぇなぁ…、ほら、来いよ』
黒羽はソファに座り、満面の笑みで腕を広げた。怜はその中に勢いよく飛び込み、すりすりと甘えた。
小さな体の怜は、黒羽の腕の中にすっぽりと包み込まれる。
『落ち着く、バネの匂い……』
「おいおい、嗅ぐなって! お前みたいに良い匂いじゃないだろ?」
『なんて言うんだろ……、あったかい日の匂い?』
「なんだそりゃ」
楽しそうに笑う黒羽に怜もつられて笑う。そして、背中に腕を回し、胸に顔を埋めた。
まるで、小さな子どものような甘え方に黒羽はあやすように、ぽんぽんと背中を叩いた。
『ん、バネあったかい……、カイロみたいだ……』
「そうか? お前が寒がりなだけだろ」
『えー? でも、サエはあんまりあったかくないけどなぁ』
「は、サエ?」
怜の言葉に思わず変に声が上がる。
そんな黒羽に不思議そうな目をしながら怜は首を傾げた。
『どうかしたか?』
「い、いや……、お前、サエにもこんなことしてんのか?」
『たまに? サエがおいでーって言うから』
「あいつ……」
黒羽はいつも無駄に爽やかな同級生が自分の恋人を抱きしめる姿を想像し、思わず顔をしかめる。
そんな黒羽の顔を見て、怜は少し眉を下げた。
『バネ、心配しなくても俺はバネの腕の中が1番好きだぞ?』
「んー……、多分お前と俺が心配してる内容はちょっと違ぇな」
『そうなのか……?』
「あー……、まぁ、いい。お前が分かってないなら……。だが、あんまり俺意外にはベタベタしないこと。いいな?」
『んー』
にぱぁっと笑い怜は再び、黒羽に抱きついた。
困ったように笑いながら怜の背中を優しく撫でる。
『バネー、眠たい……。一緒に寝よー』
「ん? そうだな。昼寝するか」
『でー……、起きたら犬の散歩行ってー……それ、で……』
「分かった分かった。おやすみ、怜」
怜は黒羽の言葉に安心したように寝息をたてはじめた。
「まったく、こいつは……」
暖かく感じるのは、恋人だから。
寒がりな恋人を包む。
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