▼ 後輩
『切原、いい加減離れろ』
「いやっす。先輩が俺の家に来てくれたのに、離れる理由が無いでしょ」
久々に2人がが休みになった日曜日の午後。2人は赤也の部屋でまったりと過ごしていた。
赤也はずっと後ろから凛を抱きしめ、楽しそうにしている。
『聞き分けない奴は嫌いだ』
「ぅっ……もぉ〜、いいじゃないっすかー。学校でもイチャイチャするの嫌がるくせにー」
『いいからどけ』
凛に強く言われた赤也は仕方なく腕を離す。
すると、自由になった凛はくるりと振り返り、程よく筋肉がついた胸へと抱きついた。
何が起こったのかわからない赤也は顔を真っ赤にして凛を見つめた。
どことなく楽しそうにしているのが分かった。
『こっちの方がいい……』
「あ、ぁ、凛、先輩? どうしたんすか、今日。めちゃくちゃ甘えますねっ……!」
『……悪いか?』
「むしろ大歓迎っす!」
『あっそ。なら、大人しくしとけ』
凛に手を伸ばそうとした赤也を鋭い声が制する。それなのに、甘える猫のように擦り寄り、抱きついてくる凛に赤也は渋い顔をした。
すぐそこから伝わる体温に胸が苦しくなる。
「何なんすかこれ! 凛先輩、焦らさないで下さいよ!」
『煩い。お前、触らせたらすぐ盛るだろ。俺はまだゆっくりしたい』
「俺、そんな理性強くないっすよ!」
赤也が眉間に皺を寄せ、叫ぶ。その声に凛が鬱陶しいと言うように赤也の胸から顔をあげ、溜息を吐いた。
背中に回していた腕を、首に回す。赤也のくるくるとした髪の毛が腕を擽る。
『だから、“まだ”って言ってんだろ』
「だから、俺の理性はっ……、え?」
『“まだ”ゆっくりしたい。……後からちゃんと触らせてやる。今は抱きしめるだけにしろ』
何食わぬ顔で言う凛に思わず顔を赤くする。
黙り込んだ赤也に、凛は楽しそうに笑った。
「な、何笑ってんすか!」
『後輩いびりは楽しい、って思った』
「く……、後で絶対泣かす!」
『ん、お手柔らかに。赤也?』
凛は、口角をあげて挑戦的に笑う赤也の頬を撫でた。
この表情が大好きだ。何にでも強気で向かって行く、自分にはない強さ。
「このタイミングで名前とか……。んー……、やっぱり今からじゃダメっすか? 先輩の泣き顔見たい……」
『嫌なお願いだな……』
「先輩も好きなくせに」
『好きじゃねぇよ』
自虐気味に笑う凛に赤也は深く唇を重ねた。
体をびくりと震わせた凛だったが、身を任せるように目を閉じた。
体温が酷く心地いい。絡み合う舌にすべての感覚が奪われる。
2人の息が切れ、名残惜しく舌が離れる。凛は目を潤ませ、赤也を見つめた。
「エロい顔……」
『うるせぇ。盛んなよ』
「もう無理っす」
『はいはい……』
たまには愛する後輩に甘い意地悪を。
それが、自分のご褒美になる。
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