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『あの、先輩、離して下さい……』
「どうして?」
『いや、あの……、みんなの視線が辛いです……』
午前中の授業が終わり、昼食をとろうとした悠は不二に捕まり、後ろから廊下の真ん中で抱きしめられていた。
最近はずっとこうだ。前からスキンシップの多い人だったが、もっと酷くなったように思う。このままでは何か勘違いをしてしまいそうだ。
「僕は気にしないよ?」
『俺は気にします……。あの、お昼食べたいんですけど』
「じゃあ、一緒にたべようか」
『え、あ、はい。でも……』
「ほら、行くよ?」
不二は抱きしめていた悠の体を解放したと思ったら、互いの指を絡ませ、まるで恋人のように手を繋いだ。
『せ、先輩っ……』
周りの生徒からの視線がより強くなる。それに加え、ひそひそ話す声、不二に向けての嫉妬の声、何故か嬉しそうな女子の声。
顔を赤くしたらいいのか、青くしたらいいのか分からない。
顔を俯かせ、悠は不二に引かれるまま歩き出した。
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