Episode2.06.Side-L-

「カシス」

真っ暗な空間に、一人の男性が浮かぶ。

「親…父」

カシスは目を見開いた。
この男の人はカシスが幼い頃に亡くなった父親だった。自分の好きだった父親。けれど、その父親の右手にあるのはナイフ。

「ずっと待っていたよカシス…一人で寂しかっただろう?もう大丈夫だ。俺と一緒に行こう…」

一歩一歩近づく父親にカシスはクッと喉の奥で笑った。

「…こんなもんで勇気を試すだと?馬鹿にしてくれるぜ。これくらい…普通に解けるさ」

そう言って自分のポケットに入っているナイフを握る。

「親父は…こんな事言わねぇ」


ぐらんとカシスの視界がぶれて、幻覚が解けた。


「…はぁ」

ただの幻覚であることはわかっていたが、それでももう会えない大切な人に会い、殺されそうになるのはつらい。

「テンション下がるぜ」





シュガーもカシス同様、これが幻覚だと言うことに気付いていた。

場面は一面の雪。雪山だろうか。
見たことのない風景の筈なのに、嫌な予感が胸に広がる。
見るな、忘れろと頭の中で警報がなる。

「シュガー、早く」

後ろからかけられる声に心拍数が増した。
この声は、

「おかあ、さん」

振り向くな、駄目だ。そのまま忘れてしまえ。

「早く、逃げるんだ」

父親の声も投げ掛けられて。
反射的に振り向いた先は真っ赤だった。

「お父さん!お母さん!」

近寄ろうとするシュガーの前にソルトが現れる。

「お前のせいだよ。お前のせいで父さんも、母さんも死んだ」

ひく、と喉がひきつる。身体中の酸素がなくなったかのように一気に苦しくなって、わなわなと唇が震えた。

「お前なんかいなければよかったのに」


「…なさい、ごめ…なさ…っ」


『――・・』
不意に何処かで聞いたことの有る声が響く。肩に手を置かれ見上げると、誰かに似たような、見覚えのない銀色の髪の毛の男性がシュガーを優しい顔で見下ろしていた。

「あなたは、」

『シュガー!しっかりしろ!』

またさっきと同じ声が響き、その正体がカシスであることに気付く。
そうだ、これは、幻覚だ。

シュガーの目に光が灯るのと同時に、幻覚は解けた。









CreationDate:2005.07.18
ModificationDate:2015.04.07




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