Episode1.06

ムーンライトスターは、見た目は黒曜石と変わらないが、満月の光に翳すと中が星の様に光ることから名前を付けられた宝石である。
石は微量に魔力を含んでおり、かなり希少価値のあるもので、ブラックスター家の所有する鉱山でしか見つからない。
その為ムーンライトスターはブラックスター家を印す宝石であると言われている。
ブラックスター家の習わしとして、分家やよその家に嫁または婿に行く際に、ブラックスター家の証としてムーンライトスターの結晶を贈るものがある。
男が言った、妹に分け与えられるべき宝石とはこの事なのだろう。

その結晶のまま姪に渡すことも考えたが、男には危惧していることが一つあった。それは姪が 一般人として育ったことである。娘は縁を切った祖父母にあったことがなく、父母もそれに関する話はしていない。娘もその周りもブラックスター家と関わりがあるということなど全く知らない。結晶を渡すことで、周りに見つかって利用される可能性が懸念された。

そうして男とその両親が考え付いたのは、身に付けられるアクセサリーにすることだ。
見た目は先程も記したように黒曜石に似ているため、満月の光にさえ翳さなければ周りに気付かれることはない。
魔力を持つ宝石は身に付けることで持ち主を危機から守ってくれるという逸話もあり、素晴らしい案だと思われた。

しかし。

魔力を持つその結晶は、普通には傷一つさえ入れられないほど硬度であった。物理的なものだけでなく、魔力的にも。
ブラックスター家は家こそ高貴な家系だが、魔法を使えるものは少ない。使えても、アクセサリーを作る様な細かい作業が出来るものはいなかった。

悩んだ男の耳に入ったのは、ウィルオウィスプで開かれているという店の情報だった。

プロの宝石屋に無理だと断られたものを作ってくれた、素晴らしい装飾技術だった、天才魔術師がやっているに違いない。など。
(まさか生徒が作っているとは誰一人として思っていなかった。)

そうして男は両親に話をし、最後の望みをかけてウィルオウィスプに向かった。
ウィルオウィスプの事務室でシュガーが荷物の配送を頼んでいるところに出くわし、まさかと思いつつ話しかけ、助手であると言われたことに安堵する。(いくらウィルオウィスプの人間だとは言え、生徒という子供には無理だと思ったからだ。)

一目で石に気付いたシュガーに有能さを認め、その上のプロであれば、と男は確信をもって乞い願った。









CreationDate:2005.07.26
ModificationDate:2015.04.01




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