眠りの歌姫 | ナノ



07


男子寮
廊下

七海のデビューに対する言葉を聞いて、仕方ないと納得はしたものの…やはり心のわだかまりは中々消えなかった。

「…なんだよ、あいつ」

思い出すのは昼休みのこと。
Sクラスに所属してはいるが、授業中はつねに爆睡。テストはつねに再テスト。これで印象が良い訳がない。

自分の部屋に着き、苛立ちが現れたのか乱暴にドアを開けると、…出入りぐらい静かに出来ないんですか。とトキヤに睨まれた。

ごめんと一言言ってベッドへ座る。トキヤは机に目を落とし、楽譜を読んでいるようだ。

…そういえば、あいつってSクラスだったよな。

“あーあ、噂に流されてるような人はゴシップだらけの芸能界で生きていけないよ”

昼休みに言われた言葉を復唱する。

…なら、調べればいい話だよ。

思い立ったら吉日。やれることはすぐにやる。俺は今から音楽を聞こうとしているトキヤのヘッドフォンを奪い取った。

「…………」

トキヤに無言で睨まれたけど気にしない。

「トキヤさ、都静香って知ってる?」
「…えぇ、知っていますよ」

トキヤはやれやれと言った様子で楽譜をしまい始めた。…やった、これは話を聞いてくれる!

「どんな奴?」
「どんなも何も、眠り姫、そのものですよ」
「えぇ!ほかにないの?実はすごいとか…」
「はあ…彼女はあれでも、女子の首席合格者ですよ」
「え?」

ため息混じりに、トキヤはそんなことを言った。え、首席?

「脳ある鷹は爪を隠す。まあ彼女はそれだけではありませんが…そう考えればいいのでは?」
「え、首席ってマジ?」
「…そんなことで嘘をついてどうするんです」
「だって、首席ってトキヤじゃ…」
「女子の、と言ったでしょう。聞いていなかったんですか?」
「うっ…」

トキヤの冷めた目が俺を貫く。

「だ、だってレコーディングテスト再テストだよ?」
「彼女なりの考えがあってのことでしょう」
「…トキヤ、答えるの面倒になってない?」
「おや、今頃気がついたんですか?大分あからさまに出していたつもりだったんですが」
「…………」







男子寮
四ノ宮来栖

「というわけなんだ」
「いや、意味わかんねーよ」

眠り姫の様子を他の人に聞くべく、俺は翔の部屋に来た。

「成る程、それでSクラスのおチビちゃんを尋ねてきたと」
「いや、なんでお前はわかんだよ」
「あれ?レン、なんでいるの?」

翔の隣には那月ではなくレンがいた。

「今夜、シノミーがスパイシーな料理を作ってると聞いてね。お邪魔しているのさ」
「えっ…料理…」

翔を見たらうんざりした顔をしていた。

「でもイッキ。お姫様のことならイッチー以上のことは知らないぜ。なあ、おチビちゃん」
「おチビちゃん言うな!…都のことか。そうだな、一番知ってるのはトキヤだもんな」
「え、そうなの?」
「ああ」
「なんせ、あの二人は幼なじみだからね」

幼なじみ、

え、幼なじみ?

「え、うそ!幼なじみ!?」
「いやこんなことでうそついてどーすんだよ」
「だってトキヤそんなこと一言も言わなかったよ!?」
「そりゃあ取り立て言う必要もないだろうからね」
「俺とレンだって聞かなきゃ知らなかったしな」
「………」

『トキヤさ、都静香って知ってる?』
『…えぇ、知っていますよ』

…なんだ。幼なじみのことだから話を聞いてくれたんだ。

「なら教えてくれればいいのに」
「教えるも何も、お姫様の噂聞いているだろ?」
「…そりゃあ、いつでも寝てて…レコーディングテストは再テストとかは…」
「まんまだぜ。あいつ」
「……………」

『あーあ、噂に流されてるような人はゴシップだらけの芸能界で生きていけないよ』

…なんだよ!そのまんまじゃん!

「でもイッキ、お姫様に対してあの態度はいただけないな」
「え?」

レンを見れば、いつもより少しだけ厳しい顔をしていた。

「眠り姫は女子の首席。なんでただ寝てるだけの女の子に、姫、なんて敬称が付けられてると思う?」
「え。そ、それは…」
「それだけの実力があるからさ。現に、ボスや龍也サンは一目置いてるみたいだしね」
「…そう、なんだ…」

確かに、俺は彼女のことを噂でしか知らない。学園長まで一目置いてるって、ホントに実はすごいやつなのかな?

でも、

「…俺、やっぱり七海が心配だよ」

「………」
「………」

俺がそういえば、翔とレンは顔を見合わせ、レンが軽くため息をついた。

「聖川もそうだったが、イッキ、これはレディの問題だろ?あまり首を出さないほうがいいと思うぜ」
「でも、七海は大切な友達だよ?気にしない方が変だよ!」
「友達、ね」

レンは見定める様に俺を見てきた。…なんだよ、そのジト目は!

「と、とりあえず明日の放課後までは首突っ込む!そう言っちゃったし!心配だし!」

何か言いたそうなレン達を尻目に俺は立ち上がり、

「じゃあ話してくれてありがとう!那月によろしく!」

そういって部屋から出た。







「なあ、レン」
「ああ、だろうね」

一十木が部屋から出て行ったあと、俺とレンは顔を見合わせた。

『…俺、やっぱり七海が心配だよ』

あれは、恋、だろうな。レンも同意見らしく、ため息をつく。

「まだ無自覚みたいだけど、イッキって真っ直ぐなところあるし、自覚したら厄介そうだ」
「ああ」

好きな子の事だから気になる。まあわかるけど、ちょっと心配しすぎな気もする。

確かに都は変わり者だけど、悪い奴じゃない。授業は騒がないし(寝てるだけ)突如学園長が現れても動じないし(寝てるだけ)

…あれ?やっぱり都って寝てるだけ?俺も都のことよくわかってねーや。

「なあ、おチビちゃん」
「おチビちゃん言うな」

そんなこと考えていると、レンがやたらとニコニコした様子で俺を見てきた。

「明日の放課後、俺達も行こうじゃないか」
「は?」

急になにを言い出すんだ。つーか明日の放課後、何があるんだ。

「明日の放課後、お姫様がレディをレコーディングルームに招待してるのさ」
「へー、じゃあ一十木の明日の放課後ってそういう意味か」
「ああ」
「つかレン。お前首出すなっつっといて、俺達まで行ったら意味ねーだろ」
「一人増えたら二人になろうが三人になろうが変わらないだろ?あそうだ。イッチーも誘おう」
「おい」

レンはお構いなしで話を進める。あーあ絶対都怒るな。てかトキヤ来るのか?

「翔ちゃーん!ご飯できましたよー!!」

「げ…」
「お、ナイスタイミングだね。シノミー」

余計なこと考えてたら逃げそびれてしまった。





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