06
一方Sクラス
七海君に会いに行くと出て行った都。授業開始5分前にも関わらず戻って来ない。
「おいトキヤー」
「何ですか、翔」
振り向けば翔がこちらへやって来る。
「珍しいな、都が起きてるなんて」
「えぇ、そうですね」
すっかり馴染んだ眠り姫というあだ名。私は静香のためにあるような名だと思っている。ただ寝てるからというわけではなく、内なる才能を眠らせている様な…なんて、少し詩人のようですね。
そんなことを考えていると、クラスのドアが乱暴に開かれた。
「………」
入ってきたのはどこまでも眠そうな静香。彼女は無言のまま自分の席へ着く。…といっても私の隣なんですが。
幼なじみとは妙なもので、最早腐れ縁となったこの関係の中、私は彼女の微妙な変化によく気づく。…これは、ふて寝でしょうね。
「随分いらついていますね」
机に伏せて動かない静香にそう言えば、彼女は顔を背けたまま答えた。
「別にー」
「七海君の所へ行ったのでしょう?何かあったんですか?」
「…………」
静香はゆっくりと顔をこちらへ向ける。眉間にはシワが寄っていた。
「やあお姫様、さっきはイッキとえらくやり合ってたね」
そこへレンがやって来る。
イッキ…音也ですか。
「え、都。一十木と仲悪いのか?あいついいやつだぜ?」
「別に、私は事実を言っただけ。あいつが突っ掛かってきただけよ」
眉間のシワがかなり深く刻まれている。…相当不機嫌ですね。
「…まあ音也のことはいいです。七海君はどうだったんですか?」
「彼女の印象はよかったよ、少し気弱そうだったけど。まあ作る曲は堂々としてるから問題ないかな」
先程とは打って変わってにこやかな表情。
「…そういえば、貴女。いつ七海君のことを知ったのですか?」
「ああ、ほら私レコーディングテスト、再テストでしょ?いつも隣で龍也さんが合格した曲聞いててさ、その中で一つだけ、こう…胸に響く曲があるんだよ。その曲でいつも再テスト受けてるの。イントロだけなんだけどね、引き付けられるんだー」
「…それでいつも再テストですか」
うっとりしている彼女にそう言えば、「まあねん♪」と軽い言葉が帰ってくる。
「…褒めてませんよ」
「でさ、龍也さんたら、テストだからーって作った人教えてくれなかったんだけど、この前ついに折れてね。教えてくれたんだー」
…聞いていませんね。
「おーい授業始めるぞー席つけー」
いつの間にかチャイムが鳴っていたらしく、日向さんが出席簿片手にクラスへ入って来る。
「お、都が起きてるじゃねーか。天変地異の前触れか?」
「やだなー龍也さん。それじゃあ私がいつも寝てるみたいじゃない」
「実際寝てんだろ」
鋭いツッコミから午後の授業が始まる。
「…一十木 音也、か」
ざわめきが収まらない教室で、そんな呟きを隣から聞いた気がした。
−−−
補足
静香ちゃん
→歌は確かな技術と努力から成り立つと考える軽度の完璧主義者。感覚的に歌う一十木とは根本的な部分で合わない。さらに出会い方で印象最悪。音楽にかける情熱などトキヤを尊敬している部分もあるため、一十木は気にくわない。
一十木
→春歌が好きで好きで仕方ない。でもまだ無自覚。ホントは自分がパートナーになりたいのにパートナー候補は怠け者の代名詞、眠り姫。そりゃあ怒るわな。
一十木落ちには絶対にならないです。
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