眠りの歌姫 | ナノ



03



その夜
男子寮/神宮寺聖川

「………」

ハルのパートナーはまだ見つからないらしい。少し小心者なところはあるが、作る曲は堂々としていて力強い。彼女の曲には人を引き付ける何かがある。出来るなら、俺がハルのパートナーになりたい程だ。だが、一十木が言っていたように…俺達にはそれぞれパートナーがいる。はあ…どうにかならないものか。

そんなことを考えていると、神宮寺が帰ってきた。…やけに機嫌がいいな。

「ん?なんだ聖川、顔が怖いぜ」

ちゃらちゃらとした様子でそう言う。

「そういうお前は、随分機嫌がいいな」
「ああ。良いことがあったからな」
「良いこと、だと?」
「眠り姫が王子の歌声で起きたのさ」
「眠り姫…ああ、Sクラスにいるという怠け者か」

通称眠り姫。授業は常に爆睡していて、レコーディングテストはつねに再試験という問題児だ。

「怠け者ではないさ。彼女は、あー言うなれば、お姫様なんだよ」
「眠り姫だろう」
「違う違う。興味あるものしかやらない我が儘お姫様。プリンセス」
「意味がわからない。それで、それがお前の機嫌がいいのと何が関係しているんだ」
「さっき言っただろ。王子の歌声で起きたって。今日、俺のパートナーが試作の曲を作ってきてね。レコーディングルームがとれなかったから、教室で聞いていたのさ。教室には眠り姫が寝ていたんだが、気にせず曲をためしに歌ったりしていたら、彼女が起きてきてね。“いい曲ね”って言っていろいろアドバイスを頂いたのさ」
「? 神宮寺。お前ならば女子からの褒め言葉など聞き飽きている程聞いているはずだろう」
「授業中だって寝てる眠り姫だ。興味のあるものしか感心を示さないお姫様が俺の曲に興味を持ったんだぜ?光栄だろ?」
「そういうものか?」
「ああ。アドバイスも的確でね、試してみたみたらもっと良くなったよ」

神宮寺はそう言いながら楽譜であろうプリントを机に置いた。

「で、そっちの怖い顔はなんなんだ?レディ関係?」
「…何故わかった」
「レディが今日も暗い顔していたからね。まだパートナーが決まってないのか」
「ああ」
「ふむ」

神宮寺は顎に手をそえ、何か考えるような仕種をした。

「…うん。いいね」
「なにがだ?」

なにやら自問自答している神宮寺にそう聞けば、とんでもないことを言い出した。

「レディのパートナー、眠り姫にしよう」

…何を言っているんだ。

「お姫様も今パートナーいないし。調度いいじゃないか」
「ふざけるな。万年寝ているような怠け者がハルのパートナーだと?」
「興味がないから寝ているだけさ。彼女の眠りを覚ますことが出来るのはKissじゃない。美しい旋律、歌だ。レディならそんな曲が作れると思うんだが」
「………」
「それにいくら寝ているだけでもSクラス。Aクラスのレディにはいい相手だろ?」
「…それはどういう意味だ?」
「Sクラスの奴らには少なからずプライドがあるのさ、一つとはいえ、下のクラスの奴と組んだらデビューが遠退くだろ?そういう考える奴らがいるって意味だ」
「………」
「ま、眠り姫を推薦する一番の理由はレディなら眠り姫を歌姫にしてくれる気がするから、かな」

そう言って、神宮寺は机に向かい楽譜を読みはじめた。

「…………」

眠り姫か、確かにSクラスなら実力はあるのだろう。あとはそれを引き出せるか。…明日、ハルに言ってみるか。





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