眠りの歌姫 | ナノ



14


私としずちゃんがパートナーを組んで数日。もうすぐ、課題曲をアレンジするというレコーディングテストがある。自問自答を何度か繰り返し、自分なりのメロディラインが出来上がってきた。

アイドルはやっぱりこう…キラキラした存在だけど、しずちゃんはちょっと、何て言うか、そのイメージだと安っぽい。彼女にはもっと、奥深い美しさがあると思う。

午前の授業が終わって、昼休み。早速私はしずちゃんに会いに、Sクラスへ向かった。



「…………」

しずちゃんは、廊下の手摺りによっ掛かって…寝ていた。Sクラスはまだ授業中みたいだけど、しずちゃんは廊下で寝ている。腕組みをしてすやすやと。立ったまま寝るなんて…凄いバランス力です。

「…褒めるとこズレてるわ、ハルちゃん」
「うわあ!つ、月宮先生!こ、声に出てました?」
「そりゃあもうバッチリ」

いつの間にか、後ろに月宮先生がいらっしゃいました。月宮先生はしずちゃんを見て溜息を一つ。

「しずちゃんったらぁ、また寝てるのね」
「はい、起きてくださいしずちゃん」

軽くゆさるとしずちゃんは重そうな瞼をあげた。

「…おはよう」
「おはようしずちゃん」

しずちゃんはその場で伸びをする。ボキボキと音がなった。

「しずちゃん、その音は女の子から出ちゃ駄目な音よ?」
「あ、林檎先生。おはようございます」
「また龍也の授業寝てたのね?」
「そうそう。龍也さんったら、ちょっとうとうとしてただけなのに頭に教科書の角落としてきたのよ?しかも廊下に立ってろーって。酷いでしょ?私アイドル志望なのに」

「…それはお前が万年寝てるだからだろうがっ!!」

「日向先生」
「あら龍也。授業終わったのね」
「えー龍也さん。私万年寝てないよ。いつの間にか瞼が閉じてるの」

「それが寝てんだろうが!!大体お前、今時閉じてる瞼の上に目玉のシール貼って寝るなんてどこの芸人もやってねーよ!」

「一周回って新しいを狙ってみたんだ」

「つーか確信犯じゃねーか!!」

「あ、しまった。ついポロッと」

しずちゃんはペロッと舌を出して私の手を掴む。そして駆け出した。

「じゃあねー龍也さんに林檎先生ー」
「待て!都!今日こそその曲がった根性、俺が叩き直してやる!!」
「あらあらぁ」



「ふー、やっと撒いた」
「…はあ…はあ…」

しばらく学校中を駆け回り、空いてるレコーディングルームで一息ついた。私はもう息切れ状態だけど、しずちゃんは全くない。やっぱりアイドル志望として体力作りをしているんでしょう。

「…走り回しといてなんだけど…大丈夫?」
「…は、はい…」

ようやく息が整ってきて、私は課題曲の楽譜をしずちゃんへ。

「へー出来たの?」
「はい、私のしずちゃんに対する印象を、私なりに組み入れてみました」
「私の印象ねー」

ソファーに座って楽譜を読むしずちゃん。そしておもむろに立ち上がり…

「〜〜〜」

即興でメロディーを紡ぐ。

「っ…!」

なんというか…すごい。メロディーだけ口ずさんでるだけなのに引き込まれる。ううん、それだけじゃない。私の思い描いていた歌のまま…こう歌って欲しい、楽譜に込めた気持ちを全て汲み取ってくれている。

「〜〜…ふぅ」
「…あの、どうでしたか?」
「うん良いね。私のこと知ってるよ!って感じする。無理のないアレンジになってるし、仕事も丁寧!うん、上々」

嬉しそうに笑うしずちゃん。こんなにニコニコとしたしずちゃんは初めてだ。

「ただ、全体的にもっとスピード感を出してもいい。あと、こっちのブレスは要らない。前ので足りるよ」

次々と出て来るしずちゃんのアドバイス。

…そっか、もう私、一人じゃないんだ…。


「それからー…って、聞いてる?」
「へ?」
「…ちょっとー」

いけない、ボーッとしてた。
しずちゃんはジト目で私を見る。

「あ、あの私…誰かと曲を作るのって初めてだから…その、ちょっと感動しちゃって…」
「…あぁー…」

私がそう言うと、しずちゃんはどこか気まずそうに頬をかく。

「…まあ、これからは、うん。こんな感じでさ、一緒に曲を作っていこうよ」

差し出された手を握り返せば、暖かく…私は力強く頷いた。



そしてレコーディングテスト当日。

しずちゃんは圧倒的な実力差を見せ付けて、合格した。しかも最優秀ペアにまで選ばれ、今まで再試験だった人とは思えない成績だ。やっぱりSクラスは伊達じゃない。

おめでとうと言えばニッコリと返された。髪の毛は相変わらず寝癖が跳ねている。でも、やっぱりしずちゃんにはアイドルとしてのオーラがあった。



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