13
「うわあぁあ!…ってトキヤ!に…」
「しずちゃん!?」
落とし穴と見せかけて実はスライダーになっていたところを滑り降りれば、出口に春歌と一十木。わりと長い間滑っていたのと、窓がないことから、ここが地下だと理解した。
「…トキヤ、大丈夫?」
「えぇ。摩擦で制服が駄目になると思いましたが、平気なようです」
「そう」
起き上がって下にいるトキヤにそう問えば、返答違いの言葉が返ってきた。…別に服の事を聞いたわけではない。まあ怪我はなさそうだし、お姫様だっこが崩れるとその時点で失格だそうだが、それも平気そうだ。
「それで音也、この状況はなんですか」
立ち上がる必要性を感じなかったのか、トキヤは地に座ったまま一十木に話しかける。
「ここが最後の場所みたいなんだ」
一十木の後ろには壁一面に何やらカラフルな配線の様なものが見えた。見たところ殆ど切れている。
「この先にアイドルの証があるみたいです。でもこの中から正しい一本を切らないと開かなくて…」
「間違った配線を切ったペアは…みーんな落とし穴の餌食」
はあ…と肩を落とす一十木。残った配線は3本だそうだ。
「何かヒントは?」
「何も…」
「そう」
二人だけになっていろいろ考えたが、答えは出なかったそうだ。
私達も考えてみるが、何か思い浮かぶわけもなく…やがて沈黙が訪れる。
そして、
「ああああ!!」
雄叫びをあげだし、馬鹿が動いた。
「考えてたってしかたない!!こういうのは当たって砕けろ直感でいくよ!」
「え!あ、あの一十木君!?」
「おりゃああああ!!!!」
沈黙に堪えられなかった一十木は、春歌を器用に片手で支えながら配線へ向かう。あいてる手にはハサミ。
…プッツン
やけに大きな音が響き、沈黙。
でも次の瞬間、
『ハズレデースぅ!!!!!!』
という早乙女さんの声と共に、一十木の足元が抜けた。
「うわあぁあ!!!!」
「きゃあああ!!!!」
まあ当然のごとく二人は落ちる訳で。
ガッシャンという音と共に床は元に戻り、静寂も戻って来る。
「…馬鹿ですか、あの馬鹿は」
「馬鹿なんだよ、馬鹿」
トキヤと私は二人が落ちた床を見ながらそう言った。
底の抜けた床の上を、トキヤは慎重に歩き残った配線に近づく。
「…残りは2本ですか」
コーン
「いたっ!」
トキヤの呟きと共に、私の頭に箱が落ちてきた。
「…なにこれ、箱?」
「中は何ですか?」
「あ、ハサミだ」
「…妙なところで親切ですね」
箱からハサミを取り出して、私は2、3回開閉を繰り返す。ジャキンジャキンとなるハサミは切れ味良さそうだ。
「ハサミも手に入れたし、後は切るだけか」
「えぇ、残りは白と黒の2本…さて、どちらを切るか」
「白と黒、か。…………ん?」
「どうかしましたか?」
白と黒の二択…?
あはは、なーんだ、じゃあもう決まってる。
「トキヤ、白がいい」
『今日のラッキーカラーは白!きっと良いことがあるはずだにゃ!』
「…随分自信ありげですね」
トキヤが疑い深そうに聞いてくる。まあ今回上に行こうと言ったのも私だし、落とし穴に落ちようと言ったのも私だ。はっきり言って信用なんてないだろう。
でも何故だろ。
「まぁねん」
「…………」
これだけは、なんか無駄に確信してる自分がいる。今日の朝、白いレースのパンツにわざわざ変えただけあるのかな。
「…今日は貴女に振り回されて、ろくなことがないんですが」
「大丈夫だって、ほら、早く」
「はあ…」
どうやら反論するのも考えるのも面倒になったらしく、トキヤはため息をついて私に従った。
ハサミを持った私の切断可能範囲に、白と黒の配線が入る。少しだけ腕を伸ばし、迷わずハサミを白い配線へ。
−−プッツン
その音は静寂に包まれた空間によく響いた。
そして焦らすような沈黙が訪れ、やがて、
−−ピンポンピンポーン!
いわゆる何かに正解した時に流れる、お馴染みのあの音が鳴り響いた。
『お疲れ様デシター!YOU達の優勝デース!さあアイドルの証を受け取るがいいデッスゥー』
「…まさか、本当に…?」
トキヤが私を降ろしながらそう言う。
「ほーらね。うぅー…あー背骨曲がった気がする」
ずっと同じ体制だった体を伸ばせば、ボキボキを体が鳴った。…アイドル志望の体から鳴っちゃいけない音かもね。
「…流石に、腕が痺れましたね」
「あー、うーん……やっぱもう少し体重絞らないと駄目か」
「平気ですよ、ベストサイズなのでしょう?私の筋力不足ですね」
「えぇー…その細腕のどこに筋肉つけんの。マッチョなトキヤなんて見たくないんだけど」
「馬鹿ですか、なるわけないでしょう」
「ですよねー」
他愛のない会話をして、目の前に現れた白い箱に手を伸ばす。アイドルの証…まあ早乙女さんのことだから、たいしたものじゃないんだろうけど。
あまり期待せず箱を開けると、中には、
メロンパンが入っていた。
「……………」
しかも、ご丁寧にアイドルの証という烙印まである。
「…ですよねー」
何となく分かっていたオチに、出そうになったため息を飲み込んで、私はそう言った。
「はあ、早乙女さんの考えそうなことですね。さっさと帰りますよ」
まるで興味なさそうにそう言って踵を帰すトキヤ。…全く、少しは喜べばいいのに。このメロンパンは少なくともトキヤのお陰でとれたのに。
『今日のラッキーカラーは白!』
HAYATO様はトキヤの一部なのにね。なーんかむかつくな。私だけ勝手に盛り上がって盛り下がったみたいじゃない。…いやその通りなんだけどさ。
「トーキヤ!」
「なんです…ふがっ!」
「…美味い?」
「……………」
私は振り向いたトキヤの口めがけてメロンパンをねじこんだ。一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの仏頂面に逆戻り。…いやいつもより機嫌悪いな。
「カロリー計算崩れたとか言わないでね」
「…分かっているならやめてください」
口に入った分を飲み込んだあと、トキヤはパンを手に持つ。
「全く、夕食後のランニング10週追加です」
「ふーん、じゃあ20週にしなよ」
「は…?」
私はトキヤのパンを半分ちぎり、自分の口へ運ぶ。
「はんぶんこ」
「……………」
「アイドル、なろうね」
私のその言葉に、トキヤは少し目を見開き、やがて半分のパンを口に含んだ。
「…当たり前です」
−−−
もうしずちゃん視点は書きたくないな…
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