12
続々とスタートしている中、私とトキヤはまだお姫様抱っこすらしていなかった。でもあれだけ念を押されたのだからやらないわけにはいかないし、尚且つ、私はあの単細胞に負けたくない。
「よし、いこう」
「はあ…」
ため息と共に、トキヤは軽々と私を持ち上げた。
「おぉ、流石流石。細腕のくせに力あるね」
「落としますよ」
「褒めてんの」
私のあいている腕をトキヤの首に回せば、完璧なお姫様抱っこの完成だ。
「…静香」
「何」
「意外に重いですね」
「このまま首絞めてあげようか?」
「冗談です」
失礼な…この身長の平均−5だっつーの。ベストサイズだ。
「さて、上と下。どちらから行きますか?」
体育館を出てしばらくすれば、上へ行く階段と下へ行く階段が見えてきた。
「上」
なんとなく即答してみたら、トキヤは興味深そうに頷く。
「成る程、確かに上から順に降りて行けば効率的ですね」
…別にそんな深い意味ないけど、まあ納得してるし、それでいいか。
私達は上へと進路を決めた。
一見幼稚ともとれるくだらないトラップをくぐり抜けながら、私達は上を目指す。
ふとトキヤが床を見ながら止まった。
「…床の色が微妙に違いますね」
「落とし穴?」
「えぇ、恐らく」
トキヤが片足でトンっと床を叩けば、床がゴソッと抜ける。…なんて大掛かりな仕掛けだ。後片付けが大変そう。
まあこんな感じで、トキヤがトラップを見つけ、たまには私も見つけて、特にたいした苦労もせずただ学園をさ迷っていた。
それにしても、
「…………」
「…………」
この沈黙に、ゆらゆらと揺れる体。
加えてこの体温…
これは、ほぼ間違いなく…
「寝る」
「落としますよ」
「冗談だよ」
危ない危ない。ホントに寝るとこだった。多分寝たら容赦なく落とすんだろうな…このまま、パッて。お尻打ってしばらく動けない自分が目に浮かぶ。
そして、
特に何もないまま屋上に着いた。
「……どうやらハズレのようですね」
「…………」
私達を嘲笑うかの如く、屋上には早乙女さんの似顔絵がかかれていた。しかも、『残念ムネーン!!一昨日来やがれデスぅ!!』との吹き出しつき。無性にいらついた。
「ここに居ても意味がありません、行きますよ」
「うん。あ、そうだ」
「……………」
「え、何その沈黙」
急に黙ったトキヤを見上げれば、心底嫌そうな顔をして、ため息をついた。
「貴女の思いつきにいい思い出がありませんので」
「……………」
私は、何も言えなかった。
「そうですか、ココに落ちろと」
私が指定した場所は、屋上に来る途中に見つけた落とし穴。見るからに一番の近道だ。でもトキヤは眉間にシワをよせ、呆れたようため息をついた。
「ほ、ほら早乙女さんの事だし、安全面は心配いらないって」
「……………」
自信満々でそう言いのけるが、トキヤの表情は変わらない。やがて何か思いついたのか、トキヤは私を見てきた。
「そんなに落ちたいなら、一人で落ちればいいでしょう」
いつもより少し低めのトーン。
「……え?」
「元々貴女のくだらない意地のせいでこうなりましたし、ここからは別行動ですね」
聞き返してみたが、内容は一緒だった。まずい、これは本当にまずい。なんせ彼は有言実行の完璧主義者なのだから。
「え、いやいやいやいや!待ってよトキヤ君!」
「貴女の提案でしょう」
「いやそうだけどさ!」
「では」
「ちょ、たんまたんま!」
とにかく落とされないようトキヤにしがみつこうと…
ポチッ
「「あ」」
…したのがいけなかった。
私の振り上げた腕の調度肘辺り。そこが壁に当たり正方形に沈んだ。
「えっと、ごめん」
私のその言葉と同時に、足元の床が抜けた。
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