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「で。地獄のアイドル強化実習って何をやるんですか、龍也さん」
私は立ち上がり、隣で腕組をしながら面倒そうにしている龍也さんにそう尋ねた。
「さあな、それは社長次第だから俺は知らん。大体あのオッサンはいつだって勝手なんだ。俺の苦労も知らねぇで…ったく」
ため息混じりにそう言う龍也さん。…どうやら本当に早乙女さんの思いつきらしい。お疲れ様、龍也さん。
「まあでも、一貫してるのは、アイドル志望と作曲家志望の二人一組で“アイドルの証”つーのをゲットするってことだな」
「…アイドルの、」
「証ぃ?」
「…ですか?」
思わず春歌と顔を合わせた。
「って言ってもただのメロ…
「STOPデース!!!」
その時、上から学園長が降ってきた。
「っ!社長!?またなんつーとこから」
「…相変わらず凄いなおい」
「…そうですね」
ドスーンという効果音と共に降ってきたくせに元気ハツラツな学園長は、口元に人差し指を添えて豪快にこちらへと向き直る。
「龍也サーン!その先はトップシークレット!!教えちゃダメ、ダメダメなのよ」
「あーはいはいわかりました」
「Ohー静香サーン!今日は起きてますネ」
「おはようございます、早乙女さん」
今日は、という言葉に少し疑問を感じつつも、形式上の挨拶を交わす。
「それでは、第XXX回地獄のアイドル強化実習を始めマース!皆サンパートナーとペアになってくだサーイ!」
学園長の声でそれぞれが自分のパートナーとペアを組みだした。横目でチラッと春歌を見たら、目が合った。何となく笑っておいた。
「ではではー!今からパートナーと二人でアイドルの証を探してもらいマース!Bat!ただの宝探しでは面白くありましぇん!この学園のあちこちにミー特製の罠がてんてんてんのテンコ盛りデスー」
…なんか、障害物競争みたいだな。
「さらに特別ルールぅ!パートナー同士はお姫様抱っこが必須デース!!!」
「…は?」
自然と漏れた私の声は、他の奴らの心の声も代弁していたようで…体育館に良く響いた。
「ちなみに、さっきのMr.神宮寺とMiss.都を見て思い付きマシター」
「おや、光栄だね。ボス」
…ニコニコと笑ってるアイツの足を踏んでやりたい。
大体この学校は男子の方がかなり多い。パートナー同士も、女同士である私達が珍しいパターンで、殆どが男同士のペアだ。そんな中でのお姫様抱っこ…見苦しいと思うのは私だけ…?
でも周りを見ると男女のペアは勿論、男同士のペアもすでにお姫様抱っこの練習をしていた。
「…………」
「しずちゃん?」
眉間にシワがよってたんだと思う。不思議そうに私を見てくる春歌。
さて、問題は私達。
はっきり言って、春歌が私を持ち上げるなんて不可能だろう。楽譜より重いものは持てないパターンだ。でもそれは私だって同じ様なもの。アイドル志望として体力作りは怠っていないが、女の子を一人持ち上げて長時間さ迷う程はない。マイクより重いものは持ちたくないパターンだ。
なら、早々に棄権して自主練の方が絶対良いに決まってる。
「あのさ春歌。こんなことやるよりレコーディングルームで曲作ってる方が遥かに有意義。てことでさっさと棄権してレコーディングルームに…
「駄目デースぅぅ!!!」
「…………」
私の声は空から降ってきた声に消えた。つーか早乙女さん、いつこっちに来たんですか。
「唯一の女子ペアが棄権では華がないデス!棄権したら退学デス!」
「退学って…つーか無理でしょ。私も春歌もお互いを持ち上げて動き回れる程力無いし」
「ム…ムゥ…」
早乙女さんは腕を組み悩みながら、やがて顔を上げた。
「ワッカリマシター!!Miss七海はMrイットキと、Miss都はMrイチノセと組んじゃってチョーダイ!」
「…は?」
指差された先を見れば、不機嫌そうなトキヤと阿呆面の一十木がいた。
「ペアが休みのMrシノミヤとMrクルスはすでに組んでもらってマスガ、彼らはまだデス!組んじゃってチョーダイ!」
「ぃやったあ!!俺七海とでしょ!?頑張ろうね!」
「はい、よろしくお願いします。一十木君」
すでに春歌は一十木と居て…というか一十木が駆け寄ってきたんだけど。仕方なく私もトキヤの方へ向かった。
「…………」
仏頂面のトキヤ。これがHAYATOになるんだから彼の仕事に対するプライドは相当なものだろう。
「トキヤ」
「静香」
お互いの名を呼び合えば、大抵相手が何を考えているのかなんてわかる。これでも長い付き合いだ。
「早急にリタイアしますよ」
「了解」
ほらね、やっぱり。
「…したら退学デース」
「…………」
「…………」
世の中そう上手くはいかないようだ。
ため息が出そうになるのを必死に抑えながらトキヤに向き直ると、後方から声がした。
「しずちゃん!」
「…春歌?」
「がんばりましょうね!」
拳をぐっとにぎりしめ、そう言う春歌。悪い気はしないけど、言う相手間違ってないか?
「えぇー!そこは俺に言ってよ七海!」
「あ、えっと…がんばりましょうね一十木君」
「うん!絶対トキヤと都なんかには負けないから!」
「…………」
「…………」
私達二人を指差し、高らかに宣言する一十木。その指へし折って、阿呆面に間抜け面を加えてやろうか。
「…トキヤ」
「……はあ」
こういうとき、幼なじみというのは便利。彼は次に私が何を言おうとしてるのかわかってる。
「私、あいつには負けたくない」
「…その妙な負けず嫌いはいつ治るんですか」
心底面倒そうなトキヤを軽く無視すれば、
「では地獄のアイドル強化実習スタートデス!!」
壮大なるお姫様抱っこ宝探しが始まった。
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聖川?ルートのネタ。
翔ちゃんと那月は公式たがらびっくり。
林檎ちゃんと龍也先生のは可愛かった。何故スチルがなかったんだろう…
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