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朝 女子寮
都
『おはやっほ〜!!』
独りでにTVがつき、爽やかな挨拶が私の部屋に響き渡る。私の朝はこれから始まる。朝の子供向け番組、おはやっほーニュース。それが始まると同時にTVが自動でつき、録画を開始。
『全国一千万のHAYATOファンのみんな、元気かにゃぁ?』
「…ばーか、眠いわ」
のそのそと布団の中から顔を出し、TVを見つめる。長方形の画面の向こうで今日もトキヤは頑張ってた。
『今日のテーマはずばり“占い”みんなは占いを信じる方かにゃ?ボクは、んー…信じちゃう!』
画面の向こうでにこっと笑うHAYATO。これが演技と見抜ける奴はまず居ないだろう。相変わらず完璧だ。
…占いを信じる、か。演じてる本人からしたらヘドが出る言葉だろうな。“未来とは自分自身で切り開くものです”とか言いそう。
「…ふぁ」
あくびを一つ。
トキヤ本人に言ったら露骨に嫌がりそうだが、私はHAYATOのことが嫌いじゃない。じゃなきゃこんな時間に起きてTVなんて見ない。
企画書一枚分の薄っぺらい存在なんてトキヤは言うが、そんなことはないと思う。一ノ瀬トキヤという人物が居たからこそ、HAYATOという人物が生まれ、育った。それは誇っていいことだと思うのに、トキヤはそれを嫌がる。確かにマネージャーやプロデューサーに楽屋でまでHAYATO呼ばわりされるのはおかしいと思ったし、曲の練習に30分しかもらえないのも酷いと思った。トキヤ程の完璧主義者ならなおさらプライドが許さないだろう。
だから私は、トキヤのサポート役をかって出た。いつかは芸能界に戻るつもりだったし、目立つことは好きだから。といってもトキヤが凄すぎて私がサポートするどころかされてるけど。
私はHAYATOも好きだから、両立できないかな…と淡い期待も抱いてたりする。だって彼はトキヤが居なきゃ生まれなかった人だし、HAYATOのいいところはまんまトキヤに当て嵌まるから。
あー両立できないかなー
私が本気でサポートに回れば出来なくはないと思う。ほぼ私のサポートなしで学園とHAYATOを両立させているのだから。なら、やっぱり私のデビューは必須か。
『…以上!レポーターはHAYATOでした!』
そんなことを考えているうちにおはやっほーニュースが終わってしまった。全然聞いてなかった……録画したのをまた見よう。
『あ!そうだ!占いと言えば、今布団に入りながらTVを見ているお寝坊さんなキミ!』
…ん?
HAYATOが画面から私を見る。否。見ている、気がする。
『今日のラッキーカラーは白!きっと良いことがあるはずだにゃ!それじゃあ来週もまた見てね〜バイバイにゃあ〜!!』
笑顔のHAYATOを最後に画面が消える。録画終了だ。
「…ラッキーカラー、ね」
せっかくHAYATO様が教えてくれたんだし、パンツを白にでも変えようか。
「ん〜」
いつもならここで二度寝だが、今日は目が冴えている。私はのっそのっそと布団から出て、いつもより早めに学校へ向かった。
体育館
「…どういうこと?」
目が覚めると、そこは体育館だった。目の前には心配そうに私を見ている春歌が見える。
落ち着いて状況を整理しよう。
いつもより早めに学校に着いた私は、教室で二度寝。起きたら、体育館。何があった。
「…しずちゃん?」
「春歌。この状況はなに」
仕方がないので春歌に質問。
「実は学園長が、AクラスとSクラスが合同で地獄のアイドル強化実習をしようと…」
成る程。また早乙女さんの思いつきか。
「ふーん。で、この女子達からの熱望の視線はなに」
辺りをぐるっと見渡せば、AS両クラスの女子が私を見ていた。
「ねてるしずちゃんを移動させるのに、神宮寺さんがその…お姫様抱っこで」
「……………」
成る程。神宮寺がね。余計なことを。どうせなら樽担ぎでよかったのに。
「で、でも!お二人共とても絵になっていて素敵でした!」
「なんのフォローよそれ」
黙ってる私に対して何か勘違いした春歌が拳を握りしめ、そう熱演した。目がキラキラと輝いてる。
にしても、仮にもアイドル志望と作曲家志望なんだから同じアイドル志望に熱を抱いてどーすんだか。プロになる者としての自覚がないんじゃないの?……って私には言われたくないか。
「まあいいや、とりあえず…」
「?」
「おはよう、春歌」
「はい!おはようございますしずちゃん」
少し遅めの挨拶を言えば愛らしい笑顔が返って来た。
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