眠りの歌姫 | ナノ



08


「ねぇ、どういうこと?」

眉間にシワを寄せた都さんは、部屋を見た瞬間そう言った。

「えっと、」

約束の放課後になり私がレコーディングルームに行こうとすると、昨日の宣言通り、一十木君と聖川様と四ノ宮さんが同行し、何故か目的のレコーディングルームの前には神宮寺さんと翔君がいて、中に入って都さんを待っていたら、そこに一ノ瀬さんまでやって来て…計7人で都さんを出迎えていた。

「私が誘ったのは彼女だけなんだけど?つーかなんであんたらまでいんのよ」

都さんの冷たい視線がSクラスの皆さんに突き刺さる。

「だってレンが…」
「私は部屋を間違えたんです。レン、放してください」
「仕方ないだろ?眠り姫の今後に興味があったのさ」
「俺達を巻き込むなよ!」
「全くです」

「はあ…で、君達は?」

「七海の保護者!」

「出てけ」

「なんでだよ!!」
「…一十木がどうしても行くと聞かず、俺と四ノ宮は仲裁役だ」

「はあ…皆暇ね。まあいいや」

都さんはため息をついてから、私を見る。自信に満ち溢れた力強い視線、圧倒的な存在感がそこにあった。

「で、考えてくれた?」
「は、はい」

私の夢はアイドルの作曲家になること。今のままでは卒業オーディションすらままならない。なら、

「私を、貴女のパートナーにしてください」

まだ沢山の可能性を眠らせているこの人の、パートナーになろう。

「うん、よろしくね」

都さんは嬉しそうに笑った。

「で、君達はいつまでいるつもり?これで私と彼女はパートナー。一応ライバル同士になるんだから、手の内は見せたくないんだけど」

またもや眉間にシワを寄せ、都さんは皆を睨みつける。ああ、さっきの笑顔はどこへ…

「いくぞ一十木」
「え!ちょマサ…!」
「クッキー作ってきたので、食べてくださいねー」
「那月まで!」

一十木君は聖川様と四ノ宮さんに引きずられて、部屋から出て行った。だ、大丈夫なんでしょうか…

「我々も行きますよ」
「おう、じゃあな都、七海」

「んー」
「はい」

一ノ瀬さんと翔君も一十木君達に続いて出て行った。

「で、あんたはいつまでいんの。神宮寺」

都さんの冷たい視線の先には、不敵な笑みを浮かべた神宮寺さん。

「そう怒らないでくれよお姫様」
「…大体あんたの性よね、私が眠り姫なんて呼ばれるようになったの。どーしてくれんのよ」
「ぴったりじゃないか」

神宮寺さんがそういうと、都さんの眉間のシワが一層深くなった。神宮寺さんはやれやれといった様子で肩を竦め、扉へ向かう。その時、

「…眠り姫から歌姫にしてくれよ、レディ?」
「!」

去り際のすれ違い。その一瞬でそう囁かれた。多分都さんには聞こえていない。

バタンと扉の閉まる音がレコーディングルームに響く。先程まで大所帯だったここも、今は二人きり。なんだか緊張してしまう。

「はぁあぁぁああぁー……」

その緊張を解すように都さんの盛大なため息が響いた。

「ったくもーなんなの。あいつら心配し過ぎじゃない?私のイメージってそんなに悪い?」
「あ、いえ、はい…」

自分の髪の毛を苛立つように掻きむしる都さん。せっかくの綺麗な髪が台なしだ。その迫力に押され、曖昧な返事をしたら睨まれてしまった。こ、怖い…

「なにそれ、どっち。わかんない」
「あ、えっと、その…」
「あー!!!それよそれ!!なんとかなんないの!?」
「え!」

ビシッと指を刺され、思わず背筋が伸びる。

「貴女、私のパートナーでしょ?もっとシャキッとしてよシャキッと!」
「は、はい!」

彼女の目を見て大きな声で返事をしたら、彼女は不敵に笑った。

「よろしい。んじゃーこれ」

渡されたのB5サイズのファイル。

「私のデータ。作曲に使って」

パラパラとめくってゆくと、それだけで彼女のすごさがわかってしまった。まず出せる音域の幅が桁違い。さらに楽器も一通り引けるという。Sクラスは伊達ではなかった。

「す、すごいですね…」
「あーすごいよねー。私の幼なじみがやってたの全部真似してたら出来るようになってたのよ」
「えぇ!」

全て真似した彼女もすごいが、その幼なじみもただ者ではない。

「そのファイルだってパクったし」
「そ、そうなんですか」

返事をした声が僅かに震える。
本当に彼女のパートナーは自分なのだろうかと。たった一クラスの違いがこんなにも広いものだったのかと。

「ん?どうした?」
「いえ、その…」

もしかして自分は、かなり不相応な方のパートナーになってしまったのではないだろうか?

「…ん?」
「本当に、私がパートナーでいいんですか?」

しぼりだした言葉で都さんを見れば、都さんは面倒そうに頭を掻いた。

「は?」
「で、ですから!都さんのパートナーを私なんかが務めていいんですか!?」
「はあ?」

都さんは呆れたような顔をした。

「あのさ、誘ったの私だよ?“私なんか”って何、“なんか”って。貴女に聞いてるのは、私の曲を作りたいか作りたくないか。貴女の自己評価なんて聞いてない」

いつの間にか眉間にもシワが寄っていて、都さんは詰め寄る様にそう言う。

「わかってないみたいだからもう一回聞くね。私の曲を作ってみないか!」

『私の曲、作ってみない?』

頭の中で昨日の情景が蘇る。
一流アイドルの様な華のある彼女からの魅力的なお誘い。作りたいか作りたくないかと問われれば、

「つ、作りたい、です」

作りたい。私の曲で輝いてほしい。

「そう。それでいいんだよ」

都さんは満足げにうんうんと頷き、もう一度私を見た。

「それから、敬語とさん付け無し。私は貴女の事、春歌って呼ぶから貴女も好きに呼んで」
「えっと、じゃあ静香さん…?」
「だから、なんでさん付け?呼び捨てでいいよ。ほら静香」

都さんはなんでもないようにそういうが、いきなり呼び捨てというのは私の中で抵抗があった。自分が呼ばれるのは構わないけど。

「で、では、しずちゃんで」
「…しずちゃん?」

彼女は驚いたように目を見開き、復唱する。

「嫌ですか?」
「いや、嫌やっていうか、なんてゆーか。あーしずちゃんか…うん。しずちゃんしずちゃん。うん、いいか、新しいし」

しばらくうーんうーん悩んだあと、しずちゃんはとても優しい笑顔を私に向けた。

「んじゃーまあ、これからよろしくね、春歌」
「はい、よろしくお願いします!」

こうして私と彼女の二人三脚が始まった。何かと振り回されそうだけど…彼女を思い描いて生まれたメロディに、心踊る私がいた。



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完全にともちゃん立ち位置。
でもともちゃん居たら成立しないんです…
しずちゃんは独占欲あるんで





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