全力疾走 | ナノ



運び屋と陸上部2



陸上部の話をして1日経った。

部活、帰り、そんで今日の朝。

北沢になんら変わった様子はなかった。変わら過ぎてあれは夢かと思うくらいだ。

で、昼休み。

俺は北沢のいる校舎裏に行こうとして、

「丸井君」

…呼ばれた。

「ぶ、部長…」

ちなみに俺の声がちょっとどもってるのは、部長の声が昨日より低いから。

「…誘ってくれた?北沢さん」
「あ、ああ、聞いてみたぜ」
「…それで?」
「……なんつーか、流された」
「は?」
「だから、流された!もういいだろぃ?俺行くとこあんだよ」
「ち、ちょっと待って!一生のお願いって言ったじゃん!!丸井君が頼りなんだって!もっと頑張ってよ!!」
「んなのしらねーよ!自分の部活じゃねーか!部長こそ頑張れよぃ!!」
「無理だから頼んでんだよ!」
「開きなおるな!」

くそっ!こうしてても埒があかない!こーなったら…

「ねぇ丸井君!!」
「だから行くとこあんだよ!じゃーな!!」

逃げるが勝ち!

「あ!コラ!!ちょっと!!」

…あれ、でも確か部長って…

「あ、あはは…伊達に立海で女子陸上部の部長してないよ…」

「………」

そうだった。部長は…

「この私から逃げられると思うなああ!丸井ブン太ああ!!」

「うぉっ!!!」

立海で1番足の速い女だった…










「ハァッ!…ハッ!!」

く、くそ!体力ありすぎだろ部長!流石陸上部!

「待てこらーっ!廊下は走るなー!!」

お前だって走ってんじゃん!!

「ハアッ…!ハッ…クソ!!」

俺だって北沢との走り込みで前よりかなり体力ついた。ハードな練習のテニス部レギュラーという意地もある。でも、部長との差は確実に縮まっていた…

まずいな…このままじゃ捕まる。…いや捕まって何される訳でもないんだけどさ。なんか面倒だし、ここまできたら意地、みたいな。

「先輩…」
「うぉっ!」

んなこと考えてたら、どっかの教室に引きずり込まれた。角曲がってすぐだったから、多分部長は見てない。

「お、おい!」

でもまあ急だとテンパるもので…

「大丈夫です、あの先には…」

その言葉だけ頭に入り、俺は教室のドアから廊下を覗く。すると…

「あ、あれ!丸井が!?どこ行った!!」

オロオロする部長。
そんで、

「貴様か!!廊下を走っている馬鹿者は!」

あ、真田。

「げっ!真田…!!」
「陸上部部長でありながら廊下を走るなど、たるんどるぞ!」
「くっ!説教は御免だ!!」
「待て!!廊下は走るなー!」

…お前も走ってんじゃん、風紀委員。

そんなこんなで、部長と真田は消えた。

「助かったぜ、ありがとな北沢」

俺を教室に引き込んだ奴、北沢にそう言って振り返ると、北沢は神妙な顔をしていた。

「…先輩」
「どうした?」
「あの…あ、その…」
「?」

…北沢でも言い淀む事あるんだな。

「………」
「………」

しばしの沈黙。
やがて北沢の口から出たのは

「…お昼、食べましょうか!」
「あ、ああ。そうだな!」

びっくりするくらい、普通な事だった。








「…先輩」

飯食ってる時も無言。
北沢が口を開いたのは、昼のランニングが中盤に差し掛かった頃だった。

「私、陸上部には入れないんです」

そう話す北沢の顔を見て、俺はさっき言い淀んでたのはこの話だと理解した。

「…でも、勧誘されることは純粋に嬉しかったんです。だから、曖昧に断ったり、逃げたりしていました」

北沢はぽつぽつと話し出す。

「でも、私のそういう態度が先輩に迷惑をかけてしまったんですね。すいません」
「あーいや、別にあれは…」
「放課後、無理だとちゃんと部長さんに伝えてきます」

はっきりした声で、北沢はそう言った。

でも、断っただけであの部長が引き下がるとは思えない。

「…なあ」

理由。納得する理由でもない限り、部長は引かないと思った。

「なんで入れないんだよ」

「そ、それは…」

昨日程ではないが、少し北沢のペースが乱れる。

「………」
「……わ、私が…」

その絞り出すような声を聞いて、なんとなく、思った。

「いい」
「……え?」
「やっぱ、いい」

きっと、今じゃない。
この話は、今聞くものじゃない。

「お前が俺に話したくなったら、話せよ。言わなくてもいいし」

「………」

「ほら、女は秘密を着飾って美しくなるものなんだろぃ?大女優シャロン・ヴィンヤードも言ってたしな」

「………」

北沢はポカーンとした顔で俺の隣を走ってる。

「何気の抜けた顔してんだよぃ!お前は俺の妹分なんだからしゃきっとしろ!しゃきっと!」

そう言ってバンッ!と背中を叩けば、

「…は、はい!丸井先輩!!」

やっと北沢らしい返事が聞こえて来た。

「あ、あの、先輩!」

あと10周。

「話せるようになったら、聞いてくれますか!」
「ああ、いくらでも聞いてやるよぃ!!ラストスパートいくぜ!」
「はい!先輩!!」

俺と北沢は爽やかに昼のノルマを走り切った。




…放課後、俺もついていくか





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