全力疾走 | ナノ



運び屋とダイエット3


「う、嘘だろぃ……」

目の前には、綺麗に片付いた俺のロッカー。

「も、もう食えねー…」

背後には、腹の膨れた赤也と大量のゴミ。

「………」

否。大量の、俺の宝の、残骸。

ど、どうなってんだ…!俺が部活後に食べようとしてた宝(菓子)が何故赤也に食われている!?

「あれ、ブン太。もう30周終わったの?初めに比べてタイム速くなったんじゃない?」
「ゆ、幸村くん…これは……」
「ほら、ダイエットしてるんだから、ね」
「…………」

“ね”って。俺の命とも言える、宝(菓子)なのに…

「幸村くん…」

自分でも驚くくらい低い声が出た。

「何?」

「いくらなんでもコレはひでぇよぉぉぉ!!」

俺はそう喚いて、部室から駆け出した。ダセーけど、涙目だ。


「うーん。ちょっとやり過ぎたか」
「く、苦しい…食い過ぎた…」
「…赤也は午後のメニュー倍かな」
「え゙!!幸村部長それはきつ……うえっ…」



いくら幸村くんでも、朝のアレはひどいと思う。確かにダイエットだから菓子が駄目なのは俺もわかる。でもさ、ちょっとだぜ?たった、リュックサック1コ分だぜ?いつもの消費量の半分にも満たねーのに…

はあ…

つーわけで、昼休みの今も俺は、いじけてる。何となくレギュラーの居る屋上には行きづらく、弁当を持って校舎裏をウロウロ。

…あ

「あれ?丸井先輩!」

北沢が居た。

「もう走りますか?」

…まだ昼食ってねーよ。
つーか、嬉しそうだな。

「あの、丸井先輩?…朝練のあとから不機嫌ですけど…もしかして、私何かしちゃいましたか?」

俺がしかめっつらで黙ってるからか、北沢はしゅーんと不安そうな顔をした。何これ。いい奴過ぎんだろ。

「北沢、お前…」
「はい、なんでしょう」

「いい奴だな」

「はい?」

俺は弁当を広げながら、朝の出来事を北沢に話した。









北沢は、俺の話を熱心に聞いてくれた。

「それは辛いですね…」
「…だろ?」
「私も甘いもの大好きなんでわかります…運動した後の甘いものって、もー格別に美味しいんですよね!!」
「北沢…お前、わかってるな」
「はい!リュック1コじゃ足りないですよ!!」
「だよな!ホールケーキは一人前だよな!」
「はい!そのくらい食べないと食べた気しません!バケツプリンは神様だと思いました!」
「北沢…」
「丸井先輩…」

ガシッ!!

俺達は堅い握手を交わした。

ここまで、ここまで俺と気の合う奴は初めてだ…!他の奴らはホールケーキのくだりで引く。

「あ、丸井先輩!これ、私からの差し入れです」
「?なんだこれ、クッキー?」
「ただのクッキーではありませんよ。豆腐クッキーです!」
「豆腐クッキー?」
「この間甘いものが好きとお聞きしたので、もしかしたら、食事制限で悩んでいるのでは?と思いまして!」

クッキーのパッケージには、“腹持ち抜群!”とか“大豆だから低カロリー!!”とか書いてあった。

……こいつ…なんていい奴なんだ!どっかのバカ也は俺の宝(菓子)食って倒れてんだぜ?くそ…優しさが身に染みる…

「先輩?」
「…北沢、ありがとな」

俺がそういうと、北沢は「えへへ」と笑った。

…なんか、出来のいい妹ができた気分だ。

ん?そういや…

話しながら食べてた俺の弁当はもうない。俺がここに来たのは昼休みが始まって5分も経ってない頃だ。

…北沢は、いつ飯食ったんだ…?

「…なあ北沢」
「はい、なんでしょう」
「お前、昼飯食った?」
「はい、もちろん」
「いつ」
「3.4限の休み時間に」

まさかの早弁かよぃ!
いやいやいやいや!待てって!高1だろ?女だろ?普通は友達と食うだろ!それを早弁って…お前…

「…早弁?」
「お腹空いちゃいまして」

お腹を少し押さえて、困ったように笑う。
…なんか無性に撫でたくなった。

「それに、お恥ずかしい話なんですが…実はまだ友達がいなくて」
「は…?」
「女の子って皆まとまって食べるじゃないですか。だからその、昼休みに一人でお弁当食べる勇気は無くて…」
「いや待てよ!お前明るいし、すぐ友達出来るタイプだろ?」
「挨拶を交わす程度の子は居ますよ?でもほら、女の子ってグループあるじゃないですか。それに入り損ねちゃったんです」

女って面倒だなオイ。

「元々運び屋も、皆の役立つことすれば友達できるかなーと思って始めたことなんです。出来なかったけど」

…都合のよいパシリになってねーか?

「初めは報酬もらってなかったんです。1回クラスの子が飴玉をくれて、それが広まったので今は貰ってるんですが」

…絶対それ損してるって。

「だから丸井先輩にポッキー1箱頂いたとき感動したんですよ!あんなに頂けると思ってなかったので!!」

…ポッキー1箱で喜ぶなよ、こっちが悲しくなるわ。

「だから私、丸井先輩からの依頼はマッハで終わらせてましたよ!他の方の1.5倍速です!」
「あー…ありがとな」

…何故だろう。スゲー可哀相になってきた。

「…北沢」
「はい」

「明日から一緒に昼飯食ってやるよ」

気付いたら俺はそんなことを言っていた。

「え」
「どうせ昼休み一緒に走ってるしな、調度いいだろ?」
「…え、え?えぇ!?でも先輩、テニス部の方と一緒なんじゃ…」
「あいつらは俺の宝(菓子)を奪ったから知らねー。しばらくグレてやる」
「………」

北沢は間抜け面でポカーンとしてる。やがて、

「あの、あ、ありがとうございます」

少し俯きながらそう言った。
心なしか、北沢の顔が赤く見えた。

俺は北沢の頭をぽんぽんと撫で、出来はいいけど世話のかかる妹が出来たようだ。とか思ってた。

そして予鈴のチャイムを、他人事のように聞いていた。





…あ。昼の50周走り忘れた




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