全力疾走 | ナノ



運び屋とダイエット2


爽やかな朝。俺は何故か、走っていた。

「大丈夫ですか?丸井先輩」
「ああ…」

隣で走っている運び屋、北沢が顔を覗き込んでくる。

「テニスバック、持ちましょうか?」
「いや、いい…」

なんでお前は汗一つかかずに悠然と走ってんだよ。つーかテニスバック持てる余裕あんのかよ。…ちっこいくせに。

「ちょっとペース落としましょうか?」
「いや、いい…」

…くそ、ちっこいくせに人の心配まで…!いくら体力なくてもここは意地だ!!

「学校まであとちょっとだろぃ!スピードあげるぞ!!」
「はい!」

俺がそういうとすげー元気な声が返って来た。……くそ、余裕だな…



「……………」
「…だ、大丈夫ですか、丸井先輩」
「……………」

大丈夫じゃねーよ。

30分間のテニスバック持ちながらの全力疾走は、俺のなけなしの体力を容赦なく奪った。そして俺は部室に着いたと同時に、ぶっ倒れた。疲れた。改めて自分の持久力の無さを呪った。

「ブン太、ちょっと痩せたんじゃない?」

幸村くんは爽やかな笑いを浮かべ俺を見下ろす。……嫌味だ。一日で痩せる訳ねーのに。嫌味だ。

「落ち着いたら朝練参加してね」
「…わかった」

幸村くんは終始笑顔で消えた。

「丸井先輩。ドリンク持ってきましたよ」
「ああ、さんきゅー」

俺は体を起こして北沢の持ってきたドリンクを飲む。

「そーいや、お前、運び屋だろ?なんで俺のダイエットに付き合うことになってんだよ」
「あ、それなんですが…実は柳先輩に頼まれて臨時営業中でして、前払いでお得用のポッキー1箱頂いちゃいました」
「………ちなみに仕事内容は」
「これが、柳先輩から貰ったプリントです」
「……………………うそだろ」

俺はプリントを見て絶句した。

−−−
朝/自宅からランニングで登校
朝練/通常メニューと校庭30周
昼休み/校庭50周と筋トレ
部活/通常メニューと校庭50周
帰り/自宅までランニング下校
−−−

「…なんでこんなに走るんだよぃ」
「あ、それは私が走るの大好きだからです」
「……………」

お 前 の せ い か 。

「さあ!頑張って走りましょう!私が先輩のダイエットを全力でサポートしますね!」
「…………ああ、ありがとな」

…憂鬱だ。



昼休み

「さあ、丸井先輩!走りましょう!!」
「……………」

屋上でレギュラーと飯を食ってる中、北沢がやってきた。

「ま、丸井先輩がダイエット始めたって、マジだったんスね…」
「細いブンちゃんなんて想像できんのぅ」
「…っるせ」

俺は残りのおかずを口に放り込み、弁当を片付ける。

「仁王。俺の弁当、俺の机に置いといてくれ」
「わかったナリ」

俺はそう言って、北沢と屋上をあとにした。



んで、走ってる。
校庭、走ってる。

「……………」
「……………」

無言で走る。
まだ10周目。

横目で隣を見ると、すげーニコニコした様子で北沢は走っていた。

…ホントに楽しそうに走るよな。運び屋やってるときも、すげー嬉しそうに走ってたし。

「どうかしました?丸井先輩」
「…いや、なんでもねー」

やべ、見すぎた。

40周目に入っても、北沢は爽やかな笑顔で走ってた。…俺はバテそうだった。



部活の時も北沢は来た。
ただの練習の時も、北沢は俺の世話をやいた。専属のマネージャーみてーだ。

今は下校中。もちろんランニングで。

「なあ北沢」
「はい、なんでしょう?」

俺は隣を走る北沢に話しかけた。

「お前、楽しそうだな」
「はい、走るの大好きですから!」

どこか得意げにそういう。

「なんで好きなんだよぃ」
「なんか、こう…生きてるって感じがしませんか?」
「…そうか?」
「はい」
「ふーん」
「丸井先輩は何が好きですか?」
「俺?俺は…」

俺の好きなものか…

「やっぱりテニスだな」
「ああ!今日の技すごかったですね!」
「だろぃ?次はもっと俺の天才的妙技を見せてやるよ」
「やった!楽しみです!」
「あとは…ボーリングとかケーキ屋巡りとかだな」
「そういえば、丸井先輩甘いもの好きですよね。それにいつもガム噛んでらっしゃいますし」
「ガム好きだな。このメーカーのグリーンアップル」
「へぇ」
「ケーキは自分で作ったりもするし」
「えぇ!?先輩ケーキ作るんですか!?食べたいです!」
「おう!今度焼いてやるよ!」
「わあ!ありがとうございます!」

なんか、ここまで喜ばれると嬉しいもんだな。俺、褒められて伸びるタイプかも。

そんな話をしてるうちに、家に着いた。朝よりペースが遅かったからか、朝みたいにぶっ倒れることはなかった。疲れたけど。

「では丸井先輩!明日もよろしくお願いします」
「おーじゃあな、お疲れさん」
「はい」

小さな背中が暗い夜道に駆け出す。

ん?暗い夜道…?

「ちょっと待てぇぇ!!!」

「? なんですか?」

「俺も行く」

「え」

「夜、女を一人で帰すわけねーだろ!!」

よく考えたらそうだ。部活が終わった時点で暗くなってんだから、今暗いのは当たり前。

「あ、私の家、すぐそこなんで大丈夫ですよ」

そーゆー問題じゃねーよ。

「いいから送られろ!いいな」
「あ、はい」

俺がそういうと、北沢は素直に頷いた。



…あいつの家まで走ったのは言うまでもない




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -