ミーハー | ナノ
思い出はDiamondo
「友人がその世界に心当たりがあるそうで、すぐに見つかりましたよ〜」
俺の世界を捜索しだして一時間も経たないうちに、衣笠さんはそう言った。本当に衣笠さんは何者なんだろう…?
ちなみに俺と仙道さんは体を元に戻すべく、外出を禁じられ家に引きこもっている。何もしないで時を待つというのは、中々退屈だ。衣笠さんは忙しそうだし、仙道さんは仙道さんでTVゲームに夢中。仕方なく俺はお菓子でも作る事にした。残っている材料で作れるのは、クッキーくらいだろうか。
クッキーを作りながら、俺はこの世界での事を考える。
帰りたいとは思っていたが、いざ帰るとなるとなんだか寂しい気もする。多分、飛ばされたのが俺一人だったら俺は壊れていただろう。あの疎外感に押し潰されて…
あぁ…考えたらゾッとした。
思えば仙道さんのイタズラは、俺の意識をあの疎外感から背けようとしてくれたのかもしれない。それだと仙道さんがただのいい人だ。悪魔とよばれたイタズラ大魔神なのに。
そういえば、切原も悪魔とよばれたことがあると聞いたことがある。あいつは生意気だからな、レギュラーの先輩達に歯向かったりしたんだろう。ああ柳さんに和菓子に挑戦するって言っておきながら結局作らなかったな。真田さんと柳生さんはこの前の落とし穴から無事に脱出できただろうか。丸井さんはいつも美味しそうに俺の作ったお菓子を食べてくれたっけ。桑原さんとは声が似過ぎてて驚いたな。屋上では仁王さんとよく話をしたな。
「−−−!」
ああ、幸村さんの育てた植物はみんな綺麗だった。
「−−ン!」
そうだ、怜香先輩は…
「オイ、ケーン!!」
「!」
叫ばれた耳元を押さえながら横を向くと、不機嫌そうな仙道さんが居た。
「オマエ、どんだけ作る気なンだよ」
「あ」
俺の目の前には大量のクッキー(生)が詰み上がっていた。
大量のクッキーを数回に分けてオーブンで焼いた為、かなり時間がかかってしまった。まあ時間は潰せたが。
出来上がったクッキーを仙道さんと衣笠さん、そして俺の三等分し、袋に詰める。まあ意識不明の人がクッキー持っていたらかなり変だが、気にしたら負けだ。
外はもう暗い。
そういえば学校に連絡をしていない。無断欠席だ。ああ、でももう元の世界に帰るのだから、関係ないのか。
「おや、早くて一日だと思いましたが、どうやら遅くて一日のようですね」
仙道さんと俺を交互に見ながら衣笠さんはそう言った。
「では心残りがないのなら行きましょうか」
“心残りがないのなら”
衣笠さんのその言葉が、俺の中で反響する。
「…あの、質問いいっスか?」
「なんでしょう?」
「心残りがあると、戻れないんスか?」
「えぇ、橘君の場合は。清春君は大丈夫ですよ〜僕が連れていけますから。しかし橘君の場合、僕は貴方に帰り道を示すことしか出来ませんから、帰りたいという強い思いが必要です」
「ちなみに、俺と仙道さんが居なくなると、俺達を知っている人達はどうなりますか?」
「そうですね〜。恐らく二人に関する記憶がなくなります。この世界にとって二人はイレギュラーですから、全てなかったことになるでしょうね」
「…そう、スか」
全て、なかったことに…
「何か、心残りな事があるんですか?」
衣笠さんが俺を見る。
「…そうスね、あるかもしれません」
この世界で出来た多くの友達や先輩。俺があの疎外感に潰されなかったのは、その人達との何気ない日常があったからだろう。勿論、仙道さんには別段感謝している。
それに、あの人にも、
「…あの、衣笠さん」
「はい」
「ちょっと未練断ってきます」
俺は携帯片手に、そう言った。
−−−
ジャッカルと橘君は中の人が同じです。ちなみに仙道君は沖縄のハブの人と同じです。中の人ネタも書きたかったな。
回想シーンは書きやすいが…話が進まない…