ミーハー | ナノ



天使と悪魔


聖帝学園。
その名前を聞いたのは数ヶ月前だ。そう、初めて仙道さんに会った時、仙道さんが居た学校の名前。

「清春君がお世話になったようで」
「あ、いえ、こちらこそ仙道さんにはお世話になりました」

…いや、世話した方が多いな。つーか

「え、教師?」
「えぇ、先生です」

今年で36になります。という衣笠さん。え、36?

「…見えないっスね」
「よく言われますね〜普通に生活しているだけなんですけど。ふふふ」

確かに滲み出る貫禄は年相応だが、他の部位、主に顔立ち…がどうみても10代だ。

そういえば、衣笠ってどこかで聞いたような…?

「ケーン、飯ー……」

そこへ今起きたらしい仙道さんがやって来た。俺同様、扉を開けて固まってしまった。

「おはようございます、清春君」
「オバケ…てめェ、よく俺様の前にツラ出せたナァ」

そうだ、確か仙道さんが前に…

『俺様の知り合いにナァ…衣笠オバケって奴がいてよ。ソイツと居るとろくなことが起きねェ…』

ああ、あれはこの人のことなのか。

「これには深い事情があるんです。まあ無事見つかってよかったです」
「ざけンな!ココであったが100年目、覚悟しヤガレ、オーバーケー!!!」
「おやおや」

仙道さんはどこからともなく取り出した水鉄砲を構え、衣笠さんを狙う。…ああ、後片付けは俺だろうな。水浸しの部屋を綺麗にする俺が目に浮かぶ。

と思ったが、

「そういうオイタをする子は、こうです」
「なっ…!?」

それはあっという間の出来事だった。
仙道さんが水鉄砲を発射しようとした瞬間、衣笠さんは仙道さんとの間合いを詰め、水鉄砲をたたき落とし、仙道さんの両腕を後ろで拘束してしまった。

「なっ!?俺様の動態視力を上回りやがった!?」
「それにしても、結束バンドって本当に便利ですよね〜。一度したら切らないかぎり外れませんし、この世界でも40本105円で売ってましたよ」
「お、お見事…」

思わずそう言うと、仙道さんに睨まれた。でもいつも学校で泣きを見ている真田さんや柳生さんにこの状況を見せてやりたい。

「では、清春君、僕の話を聞いてくれますね?」
「…………」

仙道さんは捻くれてしまったようで顔を背けてる。

「聞いてくれますね?」
「フガッ!ふぁなしひゃがレ!ホーハーヘー!!!!」

ああ、立海の悪魔が…。ちなみに鼻を摘まれてそのまま上下運動。

「では、清春君も聞いてくれるようですし…本題に入りましょうか」
「あ、はい」
「………チッ」

仙道さんは鼻を赤くしながら、舌打ちをした。



紅茶とコーヒーといれて、なくなったお茶うけの代わりに昨日のケーキを並べる。ちなみに仙道さんの結束バンドは俺がハサミで切った。

紅茶を一口飲んでから、衣笠さんはポツポツと話し出す。

「実は…僕の古い友人が、とある実験をしまして、失敗してしまったんですよ」
「…実験、スか」
「えぇ、その余波が、あらゆるワールドに歪みを創ってしまったんです」
「…え?」
「古い錬金術に手を出したようで…僕の制止も聞かずに…」

…衣笠さんはその後も何かを言っているが、話が壮大過ぎてわからない。困惑している俺に、仙道さんは俺の肩に手を置いて

「ツッコむな、流せ。引き込まれンぞ」

そういった。

「……………」

え。衣笠さんって何者なんスか。

「まあ要するに個々に存在していたパラレルワールドを繋いでしまう歪みを産んでしまったんですよ。それで運悪く飛ばされてしまったのが、清春君と橘君みたいですね」
「はあ…」
「しかも良いか悪いかわかりませんが、どうやら意識だけが飛ばされてしまったようで、元の世界に肉体があるんですよね〜」
「え?」
「はァ?」
「清春君は今、意識不明で入院しているんですよ〜」
「はアァァ!?」

意識だけが…ってのも驚いたが、3日?俺と仙道さんはもう数ヶ月以上この世界にいる。

「オイ、オバケ。3日ってどーゆーことだ」
「どうやらこの世界は我々の世界より時間の流れが速いようですね」

時間の流れが、世界によって違う…?じゃあ俺の世界は?

「あの、衣笠さん」
「なんですか?」

経緯はどうでもいい。

「元の世界に、戻れるんスか?」

重要なのは、戻れるか戻れないか。

衣笠さんは俺を一瞥。

「戻れますよ」

「!」

「すぐに、というわけにはいきませんが」

え?

「オイ、どーゆーことだ」

思考が働かなくなった俺の代わりに、仙道さんが衣笠さんに詰め寄った。

「清春君は僕と同じ世界ですから問題ないのですが、橘君はまずどこから飛ばされたのか調べなければいけません。それに体も元に戻さなければ」
「体…ですか?」
「えぇ。見たところ二人とも、随分この世界との同化が進んでいます」
「同化って、どういうことですか?」
「初めてこの世界に来た時に、何か感じませんでしたか?自分が異物の様な」
「……あ…、」


“世界から拒絶されたような疎外感”


フラッシュバックのように蘇るあの疎外感。思わず吐き気がして口元を押さえる。

俺の様子を肯定ととった衣笠さんは、さらに話を進めた。

「その感覚、最近あまり感じなくなっていませんか?」
「あ、はい」
「それがどうかしたンかよ」

前置きに飽きたのか、仙道さんが苛立ちげにそういう。というかやっぱり仙道さんもあの疎外感が薄れてることを感じていたのか。

「簡単に言ってしまえば、清春君達がこの世界の住民になりつつある、ということですね」

この世界の、住民…。
そうか…だからあの疎外感が薄れてきていたのか。じゃあこのまま元の世界に帰ったら…元の世界からも疎外感を味わわなくてはいけない…?

「元の体に戻すのに早くて一日。その間に橘君の世界を見つけますから、橘君」

衣笠さんが俺を見る。

「貴方の居た世界の事を、些細な事でもいい、僕に教えてください」

俺は俺の知ってる世界のことを事細かに衣笠さんに伝えた。



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こういう設定を考えるのがすごい好きです






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