ミーハー | ナノ



Love≠Like



先輩の名前は怜香先輩というらしい。柳先輩の幼なじみで、自称イケメンハンターだそうだ。

あの日から数日たった今日。

テニス部が圧倒的に人気のあるこの学校で、彼女はテニス部よりも俺達が気に入ったらしく、よくバスケ部の練習を見に来ていた。

「橘くーん!!仙道くーん!!頑張ってー!!」

今日も彼女は最前列を乗っ取って俺達の応援をしていた。他のファンは苦笑して彼女を見ている。

「ぬぁ!!」

まあ応援がうるさくてしょっちゅう仙道さんのイタズラの餌食になるのだが…。ちなみに今のは怜香先輩の顔に水鉄砲が命中したときの叫び。

「うっせーンだよ!!もう一発水喰らうカァ?」

仙道さんにもファンはいるが、そのほぼ全てが隠れファンだ。理由は明確。不用意に近づくと彼女みたいな目に合うから。

そんなイタズラにめげず、仙道さんについて行こうとする怜香先輩は、仙道さんのファンや全校生徒から勇者の様に讃えられ、彼女自身にもコアなファンがついている。多分本人は知らない。

「けほっ、せ、仙道くん、今日もキレのある素晴らしい水鉄砲だね!!」

「……………」
「……………」

本当にこの人はめげない。

落とし穴に落とされようが、『こんなに深い落とし穴に初めて落ちたよ!!』と感心し、アフロのカツラを付けられれば、『見て見て蓮二!バッフロン』とネタに使い…

先輩は仙道さんのイタズラをことごとくポジティブにとらえていた。

前に一度仙道さんが、『オマエは痛いのが好きな変態なのかよ!』と聞いたことがあって、その時の彼女の返答は、

『イケメンにいじめられるなら本望だよ!』

だった。

『…………』
『…………』

俺を含め、その場に居た全ての人間が、ドン引き。しかもその時の彼女の頭は調度アフロで、せっかくのかっこよさげなポーズもただのマヌケ面にしか見えないというとても残念な結果だった。

「よし!今日の練習はこれにて終了!お疲れ様!」

バスケ部部長の一声で、今日の部活は終わった。

「うん、今日もかっこよかった!!」

一眼レフのデジタルカメラでデータをやたらニコニコと確認する怜香先輩。…端から見ればただの変人だ。これでとても整った顔をしているのだから、なんて残念な人だろう。

「オイ、グチャ!」
「お、仙道君シャッターチャンス」

ちなみにこの“グチャ”という言葉。仙道さんが怜香先輩を呼ぶときに使う言葉だ。相当酷い呼び名だが、彼女はまるで気にしていない。

「オマエ、ガム持ってか?」
「うん、あるよー。グリーンアップルとグレープフルーツ。仙道君はグレープフルーツだよね」

カメラを首から下げて、怜香先輩はスカートのポケットからガムを取り出す。

「サンキュー。明日はイタズラ一割マシにしてやンぜ」
「うーん。できれば一割増しじゃないほうがいいな」
「しょーがねーナァ」


先輩からガムを貰った仙道さんはスタスタと体育館から出て行った。俺もつるむのはあまり好まないが、仙道さんは筋金入りの個人行動派だ。登下校も一緒に行ったことなんてほぼない。たまにストリートバスケに駆り出されるが、その程度だ。多分、あの人なりにこの世界を楽しんでいるのだろう。

なら、俺は?

初日の仙道さんのカツで荷は軽くなったが、未だはっきりとわかるこの体に突き刺さる疎外感。思えば、俺はテニス部の人達と居るときが一番安心をおぼえてる。やっぱりそれは、あの人達がこの世界で特別な雰囲気を持っているから。

でも最近、もっと安心感をおぼえる人物が現れた。

「橘君!今日もかっこよかったよ」

この人だ。

「別にいつも通りっスよ」
「うんうん、いつもかっこいいもんね」

ニコニコと笑う怜香先輩。俺は何と言うか、この人対して仲間意識を抱いてる。関わるごとに気づいたことだが、この人の雰囲気は、テニス部の人達より、むしろ俺や仙道さんに近い。どこかズレている雰囲気だ。本人はそのことに気がついているのか気がついていないのか…それはわからない。

「先輩」
「なに?」
「先輩は、世界から疎外されたような感覚って、感じたことありますか?」

いつの間にか俺と先輩だけになった体育館に、俺の声はよく響いた。怜香先輩は頭の上にはてなマークを浮かべている。

「…あ、いや、ないっスよね。すみません。忘れてください」

俺は自虐的に笑い、出口の方へ歩き出す。

こんなこと感じているのは俺だけだろうに、一体俺は何を聞いてるんだ。

「うーん、疎外感はないけど…」

俺が出入口に差し掛かった時、怜香先輩は少し悩んだ様子でそう切り出し、

「周りに引かれることはしょっちゅうかな!」

やがて、屈託のない笑顔を俺に向けた。

「…………。……はは…」

やっぱりこの人には何かある。どんな悩みも小さなモノに感じてしまう。話の趣旨が微妙にズレている所も先輩らしい。

「先輩」

だから俺は、この人が好きなのかもしれない。恋愛感情ではなく、友好的要素として。

「今度の四連休に、ここで他校と練習試合があるんです」

恐らく仙道さんも嫌ってはいないだろう。あの人のイタズラはある種のコミュニケーション手段だ。

「仙道さんと俺、レギュラーメンバーなんスよ」

「レギュラーってことは…ほぼコートってこと?」

「っス。だから先輩、絶対見に来てくださいね」

「うん!いくいく!!絶対行く!!!」

この人と居れば、俺は少しだけ疎外感から解放される。

ニコニコと笑う怜香先輩に、どこか依存している俺が居た。




−−−

怜香ちゃんはトリップじゃないけど所詮夢小説の主人公。異端だよねって話。





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