ミーハー | ナノ



「これが同族嫌悪って奴なんだね」




よく晴れた日の午後。俺と怜香は買い出しに来ていた。

俺はテニス部の。そして怜香は…

「♪〜♪♪〜」

バスケ部の。
橘に頼まれたようだ。その証拠に、怜香の腕の中には美味しそうなマドレーヌの詰まった箱がある。俺も一つもらった。相変わらず、美味い。





「ありがとうございましたー」

スポーツショップの店員の軽やかな声を聞きながら、俺達は店を出た。

目的の物が買えたので、俺達は帰路につく。

「いやー良い買い物したね!」
「ああ、まさか安くしてもらえるとはな」
「立海ってすごいんだねー」
「フ…当たり前だろう」
「あ!見てよ蓮二!クレープ!!」

怜香の指差す方には、クレープの行列。あの列では、30分は並ぶだろう。

「いいなーいいなークレープいいなー」
「………………」
「いいなークレープいいなーいいなー」
「………………」
「クレープいいなーいいなークレープ」
「………………」
「クレープクレープクレープクレープ」
「…………はあ」
「よし!」

これは仕方ないことだ。誰だって人の大勢いる道のど真ん中で騒がれてはこちらが恥ずかしい。

俺は怜香に引かれ列に並ぼうとすると…
「あれー?柳君じゃないかー!」
「…山吹の千石か。こんな所で何をしている」

“きたれ!伝説のクレープ!!”や“七色のソースは天下一”などと書かれた看板を持っている千石に出会った。

「いやー短期集中バイトをね、そういう柳君もわざわざ神奈川からクレープ食べに来たのかい?」
「そんな訳無いだろう。買い出しのついでだ」
「へーじゃあこっちの可愛いコ、マネージャー?」
「いやこいつは違う」

そう言って怜香を見る。
怜香は千石を見たまま固まっていた。

はあ…またか。


「いやー君すごく可愛いよね!名前何て言うの?あ!俺は千石清純!好きに呼んでいいよ!」
「……………」
「君みたいな可愛いコに出会えるなんて、やっぱり俺ってラッキーだなあ!!」
「……………」



怜香は黙ったまま動かない。
やがて俯き…そして…


「こんにちは千石君!私の名前は、山田花子よ!趣味は読書で、今日はテニス部のマネージャーの代理なんだ!あ!やばいよ柳君!早く帰らないと真田君に怒られちゃう!じゃあ千石君!私達行くね!!」

爽やかな笑顔で怜香はそう言い、スタスタと歩いて行った。

「……………」

ツッコミ所がありすぎる。山田花子…その偽名は古くないか。趣味は読書…お前活字見ると眠くなるだろう。大体そんな偽名に引っ掛かるやついるのか。

俺はそう思いながら、千石を見ると…


「へぇ花子ちゃんかあ〜照れ屋さんなのかな?ね!柳君!」


…信じる馬鹿はここにいた。

「ではな千石。弦一郎に怒られるので俺は失礼する」

なんとなく山田花子の口裏に合わせて、その場をあとにした。








「蓮二」

クレープ屋からしばし離れた交差点。
そこに秋津は突っ立っていた。

「…どうした」

何か悩むように眉間にシワを寄せている秋津。先程の様子も変だったが…今も変だ。
「私ね、わかった」

怜香は一度空を仰ぎ、そして力強く俺を見た。



「これが同族嫌悪って奴なんだね」



「………………」

どこかスッキリした様子でヤツはそういった。



「千石君を見たときにね!わかったの!こいつは私と同じ臭いがするって!!そしたら案の定!」

「………………」

「ダメよダメ!あんなんじゃ女の子にはモテないわ!」

「………………」

同族がモテないなら自分もモテないが、それでもいいのか?

「あれは黙ってればかっこいいタイプね!」

「………………」

自分もその黙っていればタイプなことに気づいていないのか。



そのあと、学校に着くまで千石のダメだしをし続けた怜香。言ったことが全て自分に当て嵌まる。千石が自分と同族と認めているのに、何故ダメだしできようか。流石だな。


俺は呆れながら、未だ喋りつづける怜香を見た。










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