ミーハー | ナノ



「貴女面白いこと言うね」



「雨だ」
「雨だな」

三泊四日の合宿、最終日の四日目。
今日は昨日の快晴が嘘のように雨が降っている。これでは練習が出来ないので、大広間に集まりストレッチや筋トレをしているが…それもいつまでもつか。

「柳先輩ー!筋トレ飽きたんで、レクリエーションしましょうよ!」

ほらな

「赤也、腹筋100回背筋50回腕立て伏せ50回追加だ」
「げ…!」
「レクリエーションか…面白そうだね」
「精市?」

精市はそう呟いて、窓を見つめる跡部に話し掛けた。

「ねぇ跡部。今日は最終日だし、天候もああだ。帰りの集合時間まで好きにさせないかい?」
「………」

跡部は部員達を一瞥して、答えた。

「確かに他の奴らも集中力が切れてるからな。いいぜ」
「っしゃあ!流石跡部さん!!」
「切原は追加分が終わってからだ」
「なっ!?」

最終日はレクリエーションで終わるようだ。

「なにー?レクリエーションすんの?」
「ああ」
「へぇ!いいねーいいねー」
「…どこに行く…怜香」
「カメラを取りに部屋へ」
「……………」
「イケメンしか居ないレクリエーションなんておいしいものを逃すわけないでしょ!こっちは仙道君と橘君の試合蹴って来てるんだから報酬貰わなきゃ!」
「………はあ…」

ウキウキとした様子で大広間から出ようとする怜香を尻目に見ながら、俺はため息をついた。…その直後


ばっちぃぃいぃん!!!!


広間に破裂音が響いた。


驚いて音のした方を見ると、左頬が赤くなった怜香と、右手を突き出して止まっている小森美佳がいた。

「最ッ低!!」
「…??」

怜香は状況についていけない様子で、左頬を押さえ、目をぱちくりとさせている。

「なんで貴女ってそうなの!?いつもイケメンイケメンって!私がどんな思いで皆と…!…違う違うそうじゃなかった…えっと…そうそう!皆真剣にテニスやってるんだから、イケメンって騒いで邪魔するのやめなさいよ!!」
「…………」

怜香はその言葉を聞いてもまだポカーンと口を開けている。その様子にいらついたのか、小森美佳はもっと怜香に詰め寄った。

「ちょっと!私の話を聞いてる!?」
「小森!!」
「うっ…景吾…」

跡部が小森美佳の前に立ち、俺は怜香に近づいた。

「怜香、大丈夫か」
「……え?ああうん大丈夫でゴワス」
「………」

……ゴワス?
こいつがこれ以上変になったらどうしてくれるつもりだ小森美佳。

「だって景吾達はミーハーが嫌いじゃない!皆思ってた事でしょう!?それを注意してるのよ!」
「あいつは仕事の時は騒いでねぇし、仕事はちゃんとしていた」
「でもでも!下心見え見えじゃない!誰かに取り入って彼女になろうとか思ってるのよ!?」
「それは…」

立海レギュラーなら「それはない」と断言出来ただろうが、跡部はまだ怜香の人となりを知って二日目。言葉が詰まるのも無理はない。俺が助け舟を出そうと一歩前に出たその時…

「……あは!」

俺の後方から


「あははははははは!!」


高らかな笑い声が響いた。

「…………」
「…………」
「…………」

広間の全員が沈黙し、笑い続ける彼女を見つめる。そして状況に堪えられなくなった小森美佳が口を開いた。

「な、何がおかしいのよ!?」
「いやー」

笑うのを止め、怜香は小森美佳の前に踊り出た。

「貴女面白いこと言うね」

「はあ?」
「私がここの誰かの彼女になる?あははは!ないないないない!儚げ美人は中身真っ黒だし侍くんは考え古いし銀髪の君は嘘ばっかだし紳士くんは融通きかないし赤髪くんは糖尿病が心配だしラテン系は苦労人だしエースくんは周り見えてないし泣き黒子の君は俺様だし丸眼鏡くんは伊達眼鏡だし身軽くんは落ち着きないし羊くんはどこでも寝ちゃうし帽子くんは今ひとつ足りないしロザリオの君はワンコだし日吉君は落ち着きすぎてるし樺地君は樺地君だし。ね、ないでしょ」
「………」

「へぇ…中身真っ黒かぁ…」
「考えが古い…だと…」
「まあ詐欺師じゃしのぅ」
「融通がきかないですか」
「…糖尿……」
「苦労人…だからどうすりゃいいんだ」
「…周り見えてないってどういうことっスか……」

「アーン?俺様で何が悪い」
「開き直るなや……アカン伊達眼鏡だしって意味わからん。岳人、落ち込んだら終いやで」
「落ち着きない…」
「Zzz…」
「今ひとつ足りないってなんだよ!?」
「ワンコ…俺犬ですか…」
「褒め言葉として受けとっておきます」
「…ウス」

「…………」

怜香が一通り言ったあと、それぞれが感想を述べている。

「あ、そっか」

怜香は思い出したように言った。

「ここの誰かって、蓮二入ってる?」
「え?」

「そーいや柳先輩って、一人だけ何も言われてねー!」
「………」

今頃気付いたのか、赤也…

「そ、そうよ!なんで柳君だけ…!」


「だって、私が好きなの蓮二だけだもん」


「え…」
「………」

先程のどよめきが消え、広間が静かになる。

「ねぇ、私がどうしてイケメン観察してるか、知りたい?」
「…え、えぇ」
「ああ!この人かっこいい!あの人も素敵!!でも、やっぱり蓮二が一番かっこいい」
「………」
「これが理由。わかった?」
「比較してるってこと…?」

怜香は静かに笑い、辺りを見る。

「イケメンは好きだよ。かっこいいし面白いし、見てて飽きない。でも…私の一番になることは決してない」

そこまで言って、怜香は困ったように笑った。

「ていうか私こんなんでしょー?周りからは破天荒娘とか色んなこと言われてさー私のこと見捨てずにいるの蓮二しか居ないんだよねー」
「…俺だって呆れている」
「何も聞こえませーん!」
「…今度授業中に寝ていても起こさないからな」
「ごめんなさいごめんなさいすいませんそれだけは勘弁してください起こしてください」

俺にスライディング土下座を決めてから、怜香は小森に向き直る。

「だからさ、小森さんも、言いたいことははっきり言った方がいいよ」
「え…」
「仕事がわからないなら、教えてもらえばいいし、かっこいいー!って騒ぎたいなら騒げばいい。案外、受け入れてくれる人はいるものだよ」
「…!」
「私はさ、ミーハーでもいいと思うんだ、言われたことちゃんとやってれば。…あ、でも私…ミーハーじゃないのか」
「え?貴女ミーハーでしょ…?」
「うーん…なんか、うん。お前はミーハーじゃなくて、ミーハーの上をゆく存在だーとか言われるからさ」
「た、確かに…」
「ほら!私でなんとかなってるんだから小森さんもやってみな!」
「……………うん」

小森美佳は小さく、本当に小さく、頷いた。

「というわけで、この話はこれで終わり!」

「え?」
「…………」

「辛気臭いのは性に合わないんだよね。だからこれで終わり!跡部君に幸村君ーレクリエーションの準備よろしくね!私カメラとって来るから!!」

そう言って怜香は大広間から消えた。

「ふふ…やっぱり面白いなぁ秋津さん」
「秋津はいつもあんな感じなのか」
「うん。さあレクリエーション何をする?王道だと王様ゲームかい?」
「王様ゲームだと…?王は俺だ」
「くじで決めるんだよ、跡部。じゃあ王様ゲームで決まりだね。柳生、くじ作ってくれるかい?」
「了解しました」

広間が一気にレクリエーションの雰囲気になった中、一人立ちすくんでいる小森美佳に俺は近づいた。

「…なんなのあの人」
「………」
「人が悩んでたこと全部解決しちゃってさ」
「あいつはよく人を見ているからな」
「…………ねぇ」
「なんだ」
「秋津さんは貴方のこと好きって言ってるけど、柳君は彼女のこと好きなの?」
「………」

俺はしばし考え、そして小森美佳を見る。

「さあ、どうだろうな。俺自身、この感情が何だかわからない」
「…そう」
「だが…」

俺は怜香の出て行った扉を見た。

「あいつは俺の幼なじみで、大切な人物であるということはわかっている」
「……私も、彼女みたいに言いたいこと言ってみようかな。柳君みたいに、受け入れてくれる人、きっといるよね」
「やり過ぎに注意だ」
「どう頑張ったって秋津さんレベルにはなれないわよ」
「ふ…そうだな」

「お待たせー!記念撮影しよう!!」

2、3台のカメラを手に大広間に駆け込んで来た怜香に、俺は優しく微笑んだ。









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